MEDCHEMNEWSVol34No1
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6. 英語について15Exploit or Explore? 最適化段階で、特定の構造変換を狭く深く追っていくか(exploit)、よりたくさんの仮説を広く浅く追っていくか(explore)を常に念頭にいれるということである。 この言葉に出会ったのは、グロトン研究所に移った 1年目であった。入社して間もないメドケミストに対する弊社のサポートシステムは素晴らしく、歴戦のメドケミストとmentorshipをとおして、屈託なくアイデアを議論したり、似たような問題をクリアした先例や仲間を紹介してくれたり、色々な意味で一気に視野が広がった。筆者には、個性の強い二人の経験豊富なメドケミストがmentorになってくださった。一人のmentorはexploitすることに非常に長けており、分子の物性、コンフォメーション、binding site内での挙動などを深く観察して、シンプルかつ美しい変換へと導くことを教わった。一方、もう一人のmentorは、パラレル合成を通じて一度にたくさんの仮説を試す(explore)戦略を展開することに長けていらっしゃった。ただexploreするといっても、そのライブラリー設計においても緻密なデザインプロセスを伴い、うまくデザインすれば最適化の鍵となるいくつものSARを一挙に得ることができることを教わった。またexploreすることを通じて、予期していなかった展開に至り、一気に突破口に至ったケースも多々あった。迅速に開発候補品を見出すうえで、両者のバランスが非常に重要に思う。Believe in your intuition ずばり直感を信じるということである。かつての上司の一人は非常にこの感覚が鋭く、自分の直感を鍛えることの大切さを教えていただいた。プロジェクトを直接リードしていない現職では、この直感力は、大局観とともにより重要だと思っている。 戦略戦術面で決断をする時、第一感が意外と当たるということは誰もが経験することだと思う。特に迅速に開発候補品に導く段階においては、必要最低限のデータで「この化合物でいける」と決断し、後は決定的に中止しなければならないデータが出ない限り、臨床まで突き進むのである。過去の経験や今までのリードシリーズの傾向、それらが自分の直感とうまく混ざると降りてくるこの感覚に素直になることで、素早い決断を可能にすることができる。こうすることで、真にdecision-makingでいくつかを紹介したい。Keep it simple 言葉のとおり何事もシンプルに、である。プロジェクトの中で一体何が一番の問題点なのか深く考え、その問題にフォーカスして最短の解決方法を見出すということである。先に述べた迅速な開発候補品の同定段階では、真にdecision-makingなデータが何なのか、そしてそれを得るための最短のscreening cascadeを構築して一 気に決断までもっていくこと(逆に、いくつもの真にdecision-makingではないnice-to-haveのアッセイ系を混ぜてしまうと、その分無駄に決断を遅らせることとなる)である。また分子設計レベルでは、同じ問題を解決するにも一番シンプルな構造変換は何なのか(無駄に複雑な構造変換を入れない)を、念頭に入れることが肝である。ないデータを取りにいって決断を遅らせたり、仮想の問題点に囚われて無駄に最適化を続けたり(over-design)することを避けることができる。ただ、後は運に任せるというわけでもないので、起こりうる最悪のシナリオを想定しながら入念にバックアップの準備をしておくのも忘れない。 アメリカ生活通算20年と述べたが、ネイティブ同様な発音で英語を話すのは随分前に諦めてしまった(これが正しい選択かは別にして)。発音などが怪しい場合、アメリカで生まれ育っている子供達に修正してもらっているレベルである。そんな筆者であるが、シンプルな言葉を選んで、はっきりと自信をもって発言することを心がけている。会議中などでスピーディーに議論が展開している場合でも、焦らず自分の立ち位置をクリアにして、シンプルに意見を展開していけばいい。母国語でないがゆえのアドバンテージと、勝手に捉えている。勝負は、議論の肝となるポイントを的確に認識し、議論をそこに集中させて解決法や次のアクションプランに導くことだと思う。大事な会議前には、会議に出席するdecision makerや議題となる争点などに対して、自分の立ち位置を決めたうえで準備しておけばよい。 基本口下手な筆者が未だに苦手なのが、仕事以外の話をすることである。しかしこれはとても大切なことで、つまるところその人のことをよく知る努力をすることだと思う。どんなことに興味を持っていて、どのような

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