3. マサチューセッツ州ケンブリッジ研究所13成グループとに分かれている。これは弊社の特徴的なコンセプトの一つである。当然、分子設計と合成は切っても切れない関係であるが(現に筆者を含めほとんどのdesignerは、有機合成化学をバックグラウンドとしている)、このコンセプトによりそれぞれのdisciplineをより深く極めることができると思っている。筆者の所属するマサチューセッツ州ケンブリッジ研究所には、3つのうち2つのメドケムデザイングループが存在し、それぞれのグループが免疫炎症系疾患および感染症、そしてinternal medicine(主に生活習慣病)を担当している。筆者は現在、前者のメドケムデザイングループを率いている。 同研究所内には、上記のメドケムデザイングループの他に、各疾患領域を担当する計算化学やケミカルバイオロジーグループ、薬物動態、drug safetyなどの関連部署、そして上述した2つの疾患領域のbiology research unitがcolocalizeしている。こうして、部署間でプロジェクトレベルでの連携、またポートフォリオレベルでポートフォリオ戦略やプロジェクト進捗に必要なresourceなどの意思決定を迅速に行うことが期待されている。対応する2つのメドケム合成グループは、関連する部署で実験施設が必要なグループ(structural biology、primary pharmacology、screening platforms、ADME、drug safetyなど)と共にコネチカット州グロトン研究所にあり、日々密に連携を取り合っている。とはいえ、face-to-faceで意思疎通を取ることはやはり重要で、最低でも1ヵ月に1回はグロトン研究所に出張している。他部署との連携もそうだが、「design-synthesis split」コンセプトの成功の肝は、いかに戦略戦術の両面で、vision、goal、priorityを明確に共有しそれぞれの意見を尊重し信頼関係を築くかである。これがうまく行っているときは、splitを感じることがないくらい2つの研究所間で同じdrum beatでプロジェクトを遂行することができているように感じる。 ちなみに、がん疾患領域を担当するメドケムグループは、カリフォルニア州La Jolla研究所にあり、デザイン、合成、計算化学、その他関連の部署が同じ研究所内に集結している。 マサチューセッツ州ケンブリッジは、世界有数のバイオテックハブ内に位置するだけあり、弊社ケンブリッジ研究所の周りにはたくさんのビッグファーマやバイオテック、世界トップクラスのacademic instituteの研究施設が存在する。ボストン・ケンブリッジエリアで開かれる学会やセミナーなど、最先端の情報をタイムリーに得ることができる環境にあり、また人材の流動も非常にダイナミックである。 弊社ケンブリッジ研究所は基本オープンスペースで、役職に関わらず個人オフィスはほぼない。同じ疾患領 域を担当するメドケムデザイン、計算化学、biology research unitなどの部署が同じフロアにcolocalizeすることで、物理的な壁なくタイムリーにコラボレーションできる。先述したように、ケンブリッジ研究所内には有機合成を行う実験施設はなく、ラボは一部のケミカルバイオロジー実験と各biology research unitのin vitro/ in vivo実験に使用される。 ケンブリッジ研究所からの最近の成果として、中等 症から重症のアトピー性皮膚炎を対象とした経口JAK1阻害剤CIBINQO(abrocitinib)、円形脱毛症の治療薬 として承認された経口JAK3/TEC阻害剤LITFULO(ritlecitinib)などがある。また現在フェーズⅡ以降で臨床試験中のものとしては、非アルコール性脂肪肝治療剤として開発中の経口DGAT2阻害剤ervogastat単剤および経口ACC阻害剤clesacostatとの併用療法、2型糖尿病および肥満症の治療薬として開発中の経口低分子GLP-1アゴニストdanuglipronなどがある(図1)。 この中で筆者が直接関わったプロジェクトは、DGAT2阻害剤ervogastatの創製で、詳細は最近論文発表した1)。このプロジェクトは、筆者がアメリカに移って2年が経ったころに、はじめてメドケムのチームリーダーとして任されたものだった。ここから一発でervogastatに導いたと言いたいが、実際のところ、第一世代のPF- 06424439(臨床前の毒性試験で開発中止)2)、後ろで同時に走らせていた第二世代のPF-06427878(フェーズⅠまで)3)が間に入る。PF-06427878からervogastatへの流れは、まさに臨床データをタイムリーに受けながらで、臨床・前臨床の部署が一丸となって臨床試験に上げることができた。一直線ではなかったものの、first-in-class target spaceで勝負する際のさまざまな側面を学ぶことができた。ゴードンメドケム会議のlate breaking sessionで、一連の仕事を発表できたのは大変貴重な経験となった。噂どおりの素晴らしい学会で、発表前後ともに刺激的な議論を楽しむことができた。また最近ervogastatのバックアップPF-07202954についても論
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