2. ファイザー社の創薬研究体制: 〔SUMMARY〕1.はじめに12MEDCHEM NEWS 34(1)12-16(2024)Keyword drug discovery, medicinal chemistry, molecular design, decision-making二木建太郎Kentaro Futatsugi*1 2006年、アメリカシカゴ大学で博士課程を修了した筆者は、地元愛知県にあるファイザー中央研究所に入社した。半年後に中央研究所の閉鎖が決定したが、本当にたくさんの方々のご尽力のおかげで、アメリカコネチカット州にあるグロトン研究所に転籍する機会をいただいた。こうして2007年10月、結婚したばかりの妻と共に再び渡米した。新しい環境、メドケムの実戦経験も半年程度、部下を持つことも初めてと不安要素だらけだったが、この不安定さと、恩師である山本尚教授からいただいた「この先は一本道だと思ってください。」のお言葉が良い触媒となり、早急に色々なことを吸収するチャンスになった。4年ほどラボヘッド(自分のラボユニットを持って部下をマネージしながらメドケムをリードしていく役割)として、生活習慣病疾患領域の様々なプロジェクトに参画した。その後、後述する「design-synthesis split」の結果、マサチューセッツ州ケンブリッジ研究所にdesignerとして移ることになった。4年後には、炎症免疫系疾患領域のメドケムグループに移って、以前とは違った毛色のバイオロジー、新しい出会いを楽しみつつ、自分のこの先のキャリアについて考えるきっかけをくれた上司に出会った。それまでは、このままresearcherとしてキャリアを極めようと思っていたが、次世代のメ “Time is Life” 一刻も早く画期的新薬を患者様のもとへ。この思いを胸に、アメリカファイザー社で創薬研究を楽しんでいる。本コラムでは、変化を続けるファイザー社の創薬研究体制やメドケムに対する考え方について簡単に触れ、筆者の経験を基にした弊社のメディシナルケミストリーの研究環境や文化に関する私見を紹介したい。また、筆者が弊社で創薬研究を目一杯楽しむ中で出会ったいくつかの大切な考えなどを紹介する。“Time is Life” - deliver transformational medicines at lightspeed for patients. With this spirit in mind, I’ve been immersing myself into drug discovery research at Pfizer. This viewpoint will describe my personal view of Pfizer’s evolving drug discovery research organization, molecular design philosophy, and selected influential guiding principles I’ve learned at Pfizer.ドケムデザイナーを部下に持って育成することの充実感や、もっと広く戦略的に貢献したいという思いが強くなり、良い機会に恵まれて2年前から今の役職に至っている。振り返ると大体4~5年おきにキャリアの分岐点や変化があったが、その都度新しい挑戦をすることとなり、自分に負荷を与える良い機会になった。Life by designと格好良く言いたいがまったくの逆で、たくさんの影響力ある出会いに助けられ、意図せず目の前にふと現れた変化の機会から少しずつ自分が「心地良い」領域からはみ出すような選択に流れていった結果である。結局アメリカ生活通算20年と、まったく想定外の人生展開になった。 本稿では、アメリカファイザー社における創薬研究、特にメドケムについて概説し、筆者が弊社で経験した社内の文化に対する所感、出会ったいくつかの大切にしている考えなどを紹介したい。 変化を続ける弊社の創薬研究体制であるが、主に低分子創薬を担うメドケムの創薬研究体制について、以下に簡単に紹介する。 弊社のメドケムグループは、担当疾患領域ごとに主に3つに分かれている。それぞれのメドケムグループは「design-synthesis split」コンセプトにより、主に分子設計を担当するデザイングループと、合成を担当する合*1 Senior Director, Head of Inflammation & Immunology Medicinal Chemistry Design, Medicine Design, Pfizer Inc.Drug Discovery Research at Pfizerメドケムを中心にファイザー社における創薬研究
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