(B)線条体左線条体右(A)Naphthyridine-Azaquinolone:NA。(B)ハンチントン病マウスモデルの左脳線条体にNAを、右に生理食塩水を、 1週間隔で4回投与。平均3リピートの短縮が確認された。NHNH3. リピート病、RNA毒性159(A)Naphthyridine-Azaquinolone : NA生食水生食水3リピート短縮/4週生食水NA +生食水160リピート図1 NAによるCAGリピートの短縮 NNNHOOHNNO150155NAいう総説5)が発表されている。1997年というと、今から遡ること四半世紀、まだヒトゲノムの解読が道半ばで、今でこそ常識にもなっている事実、ゲノムの大半がnon-coding RNAとして機能していることなど、誰も知らない時代であったことに注意してほしい。しかも、これらの論文ではいずれも、RNAと低分子の組み合わせ、今風にいうと、RNA標的低分子が主に議論されている。RNAと低分子の相互作用が、将来創薬につながる可能性をこれらの論文は示唆していた。 しかし残念ながら、これら先人の先見的なRNA標的低分子創薬に関する提言は、少なくともわが国の製薬業界ではなかなか顧みられることはなかったと、筆者は思っている。筆者が核酸と低分子の相互作用研究を始めたのは1993年で、最初はDNAを対象として、その後、対象をRNAに移して研究を進めてきた。今から10年以上も前にRNA標的低分子創薬について大型研究費をいくつも狙ったが、ヒアリングでは製薬業界の委員から「A、C、G、Uの4つしかユニットがないRNAでは、タンパク質に比べて創薬標的となる構造の多様性が足りないのではないか」とか、「Off-targetを防げるのか」など、誰も答えられない禅問答を繰り返し、心に傷がのこる質問を浴びたことを思い出す。この経験から、筆者の研究室では「核酸に結合する低分子が、生体内で機能発現調節に関与できる」という事実をできるだけ多く発表し、学術界は言うに及ばす、産業界の方々に、低分子と核酸という組み合わせの可能性を感じ取っていただくことを目標としてきた。以下、これまでの研究を駆け足で紹介するとともに、今やっと多くの方に注目されるようになったRNA標的低分子創薬の課題について、筆者の意見を述べたい。3-1.ハンチントン病 筆者は相補的でない核酸二重鎖構造を対象に分子設計に取り組んだ。相補的でない構造とは、バルジやミスマッチ、ヘアピンループ、インターナルループなどの二次構造であり、RNAにはごく普通に存在する二次構造である。初期に設計したNaphthyridine-Azaquinolone(NA)6)、Naphthyridine Carbamate Dimer(NCD)7)は、予想外にも疾患に関わるリピート配列に結合した。NAはハンチントン病の原因となるCAGリピートDNAに、NCDは脆弱X症候群の原因となるCGGリピート配列に結合した。なかでもNAは、ハンチントン病マウスモデルの脳線条体に反復投与すると、線条体細胞中のゲノムのCAGリピートが短縮されるという、にわかには信じがたい効果を示した(図1)8)。 ハンチントン病は、昔はポリグルタミン病と呼ばれたように、異常伸長したCAGリピートがコード領域にあるため、タンパク質上にポリグルタミンの領域が生じ、凝集などによる機能不全が原因と考えられていた。しかし現在は、リピート病発症の原因として、翻訳されるかどうかに関係なく、異常伸長したリピート配列が転写されて生じるリピートRNAが、RNA結合タンパク質などを吸着する機能を獲得することにより疾患が発症することが主要因と考えられている。このように毒性を獲得したRNAということで、RNA毒性(RNA toxicity)と呼ばれている9)。3-2.筋強直性ジストロフィー1型 筋強直性ジストロフィー1型(DM 1)では、異常伸長したCUGリピートが、MBNL1などのmRNA代謝関連タンパク質を捕捉し、選択的スプライシングの異常を
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