MEDCHEM NEWS Vol.33 No.4
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熊本大学 名誉教授MEDCHEM NEWS 33(4)199-200(2023)199 自然と共にしか生きられない生物。生物であるヒトは自然と調和してのみ生きられることを忘れていないだろうか? 2000年以上前に書かれた、現存する中国最古の医学書と呼ばれる「黄帝内経」。実は、この「黄帝内経」は「医学書」というより「生き方の書」である。筆者は、最近、「黄帝内経」の世界に浸り、日々、2000年以上前の科学者達と語り合っている。天と地は、ヒトが存在して、天と地にはじめて訣れる。故に、ヒトは天と地に調和していないと存在の意味がない。例えば、昨今の異常気象は、ヒトが天と地に調和してこなかった天罰かと「黄帝内経」が語る。また、四季とヒトの調和のあり方も描かれている。四季にあった生き方をしなさいと。さもなければ、それぞれの季節に特有の疾病に罹患するという。例えば、春は、多くの植物が芽吹くように、ヒトも若芽や花があふれる外気に触れて、一緒に自然と同調せよと。もし、それを怠ると夏に季節特有の病にかかると。現在の夏場の熱中症の発生の多さに関連づけてみると興味深い。ヒトが、春に郊外で自然を楽しむことなく、家や室内に籠り、空調の下、ひたすら在宅勤務(特に、コロナ禍)ばかりしていると、体が夏に備えず、すなわち自然との調和がなされず、熱い夏になっても汗を出せず、熱が内に籠る。その結果、今でいう熱中症になるのではと「黄帝内経」が語っている。また、朝は春、正午が夏、夕方が秋、夜が冬というように、一日の時の流れも四季にマッチする。四季に季節病があるように、一日の中でも朝や夜に悪化する症状があることを2000年以上前にすでに説いていた。つまり、サーカディアンリズムに沿った医療は2000年以上前に行われていた。 2000年以上前の科学といえば、哲学、数学、そして芸術。科学として最も大切なこと、それは、感性に従い、「見えなかった世界」をどう「見える化」するかということ。「見えなかった世界」を哲学や芸術(絵や彫刻)で表現し、哲学を代数位相幾何学で見える化する。さらには、代数位相幾何学がピタゴラスの音律を生み出し、新たな芸術(音楽)を生み出していく。つまり、2000年以上前に、哲学、数学、そして芸術が、「ヒトとは」「幸福とは」など、「生き方」を解明していた。 筆者が属した熊本大学薬学部の広大なキャンパスにおいて、常時、800種以上の薬草・薬木が生命の尊さを感じさせ、30点以上の彫刻作品が「ヒトとは」を語りかけ、80点以上の崇高な絵画(新たなアートである フェルメール リ・クリエイト全37作品を含む)が無限の芸術的感性を醸成してくれる。今の科学者が忘れてはいけないこと、そして、次世代の科学者に伝承すべきこと、それは、哲学的、数学的、そして芸術的な感性を大切にするということだ。数十年前から、今風の科学的エ写真1 2000年前からの古代ハス(薬草園)写真2 企業との共同研究棟の一階は美術館甲斐広文Coffee Breakアートとサイエンスと薬草

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