MEDCHEM NEWS Vol.33 No.4
46/60

198AUTHOR3-2.アルツハイマー病に対する創薬研究の進展 もう一つ、ここで言及したいアミロイドーシスに対する薬剤は、アルツハイマー病に対して有効な治療効果を示すLecanemab1)である。アルツハイマー病の原因タンパク質はアミロイドβ(Aβ)と呼ばれるペプチドのアミロイド線維である。Aβペプチドは、アミロイド前駆体タンパク質(Amyloid precursor protein:APP)がセクレターゼと呼ばれる酵素により分解された際の産物として産出される、構造をもたない天然変性タンパク質(Intrinsically disordered protein:IDP)である。 Aβペプチドがアミロイド線維を形成(Fig. 3(c))し、脳などの中枢神経系の細胞に沈着することがアルツハイマー病の根本的原因と考えるアミロイド仮説は、アルツハイマー病の発症機構に関して、一つの有力な仮説である16)。Lecanemabは、モノクローナル抗体薬であり、Aβペプチドのアミロイド線維形成反応中につくられるプロトフィブリルに特異的に結合し、ミクログリアによる貪食作用により、一度形成されたアミロイド線維塊を除去する作用を有すると報告されている17)。これにより、アルツハイマー病の進行を抑えることができるという臨床試験の結果である1)。一方、アルツハイマー病についても、「元を断つ」ことを目指した薬剤開発も行われており、例えば、Aβ産出経路上にあるセクレターゼを阻害するBACE1(β-site APP cleaving enzyme)阻害剤18)を用いてAβのモノマー産出自体を抑えようという試みもなされてきたが、実用化に至っていないのが現状である。参考文献 1) C.H. van Dyck, et al., N. Engl. J. Med., 388, 9‒21 (2023) 2) H. Razavi, et al., Angew. Chem. Int. Ed., 42, 2758‒2761 (2003) 3) G. Said, et al., Nat. Rev. Drug Discov., 11, 185‒186 (2012) 4) D. Adams, et al., N. Engl. J. Med., 379, 11‒21 (2018) 5) F. Gejyo, et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 129, 701‒706 (1985) 6) J. Hoshino, et al., Nephrol. Dial. Transplant., 31, 595‒602 (2016) 7) K. Nakajima, et al., Nat. Commun., 13, 5689 (2022) 8) K. Nakajima, et al., Ultrason. Sonochem., 73, 105508 (2021) 9) K. Nakajima, et al., ACS Chem. Neurosci., 18, 3456‒3466 (2021)10) K. Nakajima, et al., Sci. Rep., 6, 22015 (2016)11) H. Naiki, et al., Anal. Biochem., 177, 244‒249 (1989)12) D.T. Humphreys, et al., J. Biol. Chem., 274, 6875‒6881 (1999)13) D. Ozawa, et al., J. Biol. Chem., 286, 9668‒9676 (2011)14) Y. Yoshimura, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 109, 14446‒14451 (2012)15) M. So, et al., Curr. Opin. Struct. Biol., 36, 32‒39 (2016)16) E. Karran, et al., Nat. Rev. Drug Discov., 10, 698‒712 (2011)17) S. Tucker, et al., J. Alzheimers Dis., 43, 575‒588 (2015)18) U. Neumann, et al., EMBO Mol. Med., 10, e9316 (2018)なりうる。今回は透析アミロイドーシスの例を紹介したが、これから適用可能なアミロイドーシスの範囲を探るべく、さまざまなアミロイドーシスにこの装置を適用した研究を推進する計画である。中島吉太郎(なかじま きちたろう)2017年大阪大学大学院基礎工学研究科にて博士号取得、2023年1月より、大阪大学大学院工学研究科物理学系専攻にて助教として勤める。物理学や工学の知識を駆使し、アミロイド線維の研究を行い、アミロイドーシスの根絶に貢献することを目指す。山口圭一(やまぐち けいいち)2006年大阪大学大学院理学研究科にて博士号取得、2022年6月より、大阪大学大学院工学研究科マイクロソノケミストリー共同研究講座にて特任准教授として勤務する。蛋白質科学が専門で、アミロイド線維形成メカニズムの解明に向けて研究に取り組む。後藤祐児(ごとう ゆうじ)1982年大阪大学大学院理学研究科にて博士号取得、2020年3月大阪大学定年退職(蛋白質研究所)、2022年6月より、大阪大学大学院工学研究科マイクロソノケミストリー共同研究講座特任研究員。蛋白質のフォールディングとミスフォールディングの統合を目指す。4. まとめ アミロイドーシスを火事に例えたときに、アルツハイマー病に対するLecanemab1)は、消火器のように、一度発生した火元を消火するために有効な薬剤である。一方、TTR型アミロイドーシスに対するTafamidis2,3)やPatisiran4)は、出火のリスクを低減する防火を狙った薬剤である。消火も防火も大火事を防ぐために重要であることは言うまでもない。こういった創薬研究が進展する中で、もう一つ重要なのは、出火を早期に検知する方法や出火前にリスクを診断するための手法を確立することであろう。筆者らが開発する超音波アミロイド誘導装置は、まだ出火(臨床症状)が確認されていない人の検体を対象として、将来の出火するリスクを評価する手法にCopyright © 2023 The Pharmaceutical Society of Japan

元のページ  ../index.html#46

このブックを見る