(Precursor)(c)Aβ3. 生体内におけるアミロイド線維形成の 197Fig. 3 (a)β2m、(b) TTR、(c) Aβタンパク質のアミロイド線維形成機構の比較図(a)β2mComplex(b)TTRNative(Tetramer)APPSecretaseNativeDenatureMonomer(Folded)Monomer(Unfold)Monomer(IDP)AmyloidAmyloidAmyloid3-1.TTR型アミロイドーシスに対する創薬研究の進展 アミロイド線維の基礎・臨床研究に関わる研究者に アミロイドーシスに対する薬剤開発の成功例を尋ねると、TTR型アミロイドーシスに対するTafamidis3)やPatisiran4)と答える研究者は少なくないであろう。TTR型アミロイドーシスは、肝臓で生産されるTTRというタンパク質のアミロイド線維を原因として起こるアミロイドーシスの総称である。国内では、故アントニオ猪木氏の命を奪った疾患として注目を浴びたのが記憶に新しい。TTRは、天然状態では四量体として存在し、ホルモンやビタミンの輸送の役割を担っている。本来、この四量体は、非常に安定であるが、変異やその他の要因によって四量体が単量体へと解離すると、変性反応を通してアミロイド線維を形成し、アミロイドーシスを引き起こす(Fig. 3(b))。 以前は、TTR型アミロイドーシスに対する治療選択 ここまで、透析アミロイドーシスに対して生体システムがどのようにアミロイド線維形成反応を防いでいるかについての研究を紹介してきた。以下では、2つの代表的なアミロイドーシスに関する創薬研究の進展と各薬剤の作用機序を簡単に紹介する。は、家族性患者に対する生体肝移植のみであった。しかしながら、2003年、J. W. Kellyらは、TTR四量体を安定化するTafamidisと呼ばれる低分子化合物薬剤を開発し2)、この薬剤は高い治療効果を示すことから、有効な治療法として注目されるようになった3)。このTafamidisのTTRアミロイド線維形成阻害機構は、前述のアルブミンがβ2mアミロイド線維形成を阻害する機構と類似している。アミロイド線維形成の発端となるTTR四量体の解離を防ぎ、アミロイド線維形成を阻害する「元を断つ」ような作用機序である。 前述のとおり、アミロイド線維は、物理化学的にみると変性したタンパク質の過飽和溶液から形成される結晶性の凝集体である14,15)。試験管の中では、アミロイド線維がひとたび形成されると、(時間スケールや見た目に違いはあるものの)ミョウバンの過飽和溶液に結晶核をひとかけら加えると即座に溶液全体が相転移するように、アミロイド形成は自己触媒的な機構が働き、加速的に進行していく。そのため、物理化学的側面から見ると、アミロイド線維の核が形成される前に、その根源となる要因を断つことが、アミロイドーシスの予防法として理想的である。近年では、アミロイド原性の高いTTRの産出を阻害するsiRNA(small interfering RNA)ベースのPatisiran4)が有効性を示しており、「元を断つ」治療法の選択肢がTTR型アミロイドーシスに対して拡大されつつある。予防戦略
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