F3CHNNHHNNHHNNHHNNHOXSNOOOXSNOFOFOOXNOSNOFHNNH191図6 P1-P2間のチオアミド変換誘導体とその抗ウイルス活性TKB198 (X = O)IC50 = 0.037 ± 0.0010μMEC50 = 0.29 ± 0.056μMCC50>100μMTKB211 (X = S)IC50 = 0.37 ± 0.015μMEC50 = 0.34 ± 0.015μMCC50>100μMTKB245 (X = O)IC50 = 0.007 ± 0.002μMEC50 = 0.03 ± 0.02μMEC99 = 0.53 ± 0.33μMCC50>100μMTKB248 (X = S)IC50 = 0.074 ± 0.034μMEC50 = 0.22 ± 0.08μMEC99 = 0.87 ± 0.04μMCC50>100μMYH-53/GRL-2420 (X = O)IC50 = 0.36 ± 0.0050μMEC50 = 2.2 ± 0.53μMTKB141 (X = S)IC50 = 0.99 ± 0.060μMEC50 = 2.7 ± 0.15μMCC50>100μMCC50>100μMOMeOMeNHとして、P1-P2間のアミド結合の酸素原子を硫黄原子に置き換えたチオアミド基への変換がある。チオアミド基は非特異的なタンパク質分解酵素によるアミド結合の分解に対し抵抗性を示す一方、その導入による毒性発現は見られず、アミド基と同等の活性を発揮することもあり、アミド結合の有用な等価体である。本研究のTKB198やTKB245のMproとの共結晶X線構造解析では、P1-P2間のアミド結合の酸素原子は外部に露出しており、Mproとの相互作用にそれほど重要ではないと推定された(図4)。今回、合成された化合物TKB141、TKB211、TKB248は、それぞれYH-53/GRL-2420、TKB198、TKB245のP1-P2間のチオアミド変換体である(図6)。これらの誘導体の抗ウイルス活性は、同様の試験を用いて評価された。結果として抗ウイルス活性について元の親化合物であるアミド体と比較し、EC50値は同定度かわずかに劣る程度であった。TKB248のEC99値はTKB245のそれと同等の活性を示した。また、これらはMproに対する強い阻害活性を示した(IC50値)10)。6. 化合物の体内動態解析 In vitro活性試験において高活性を示した化合物TKB141、TKB198、TKB211、TKB245、TKB248に対して、体内動態の解析を行った。マウスを用い、静脈注射(i.v.)、経口投与(p.o.)、腹腔内注射(i.p.)によりサンプルが投与され、一定の時間ごとに血漿中のサンプル存在量をLC-MS/MSにより測定した。YH-53/GRL-2420のチオアミド変換体であるTKB141(半減期59.0分)は、i.v.での血中半減期がYH-53/GRL-2420(半減期21.5分)やnirmatrelvir(半減期23.0分)と比較し、約2.6~2.7倍延長した。また、TKB245やTKB248のp.o.での血中半減期は、それぞれ3.8時間、4.3時間と測定され、医薬品へ展開できる高い可能性が示された9,10)。7. おわりに 変異株への有効性を確認するために、同様のin vitro活性試験を化合物TKB245、TKB248でそれぞれ行ったところ、WK-521(従来株)、α、β、γ、δ、κ、οのいずれの変異株に対しても強い阻害活性を示した10)。これは、各株間でMproの保存性が高いゆえ、いずれの変異株においても有効であることがうかがえる。TKB245、TKB248は、ウイルス増殖の要でありながら保存性が 高いとされるMproを標的とし、Mproの機能を阻害することにより、SARS-CoV-2の増殖を抑制することができる。 今回、筆者らは、SARS-CoV-2 Mpro阻害剤の創製において、HIVの研究を生かし、YH-53/GRL-2420をリードとして、医薬品としてのプロファイルの向上に努めた。おもにP3部位やP1’部位にフッ素原子を導入することにより、高活性化に成功し、P1-P2間のアミド結合の酸素原子を硫黄原子に置き換えたチオアミド基への変換により、血中半減期が飛躍的に延長し、医薬品としての可能性が示唆された。このような創薬化学やペプチドミメティックにおける戦術が、今回、うまく適用された。結果的に、nirmatrelvirとのハイブリッド化により、現状、最も強いMpro阻害活性を有するTKB245、TKB248を創出した。 上述のように本研究で得られたMpro阻害剤は、種々の変異株に有効なCOVID-19治療薬の開発に有用であると考えられる。また、筆者らは同様に、スパイクタンパク質S1より変異株間の保存性が高いS2を基にした膜融合阻害剤の創製にも成功しており14)、別の機会に紹介したい。2023年5月8日以降、SARS-CoV-2感染症が
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