MEDCHEM NEWS Vol.33 No.4
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189フッ素原子導入P3、P1’部位図3  化合物のデザインと抗HIV剤でのフッ素原子導入例nirmatrelvirとのハイブリッド化nirmatrelvir(Pfizer)P1P3P2YH-53/GRL-2420TKB198GRL-142dolutegravirTKB245EFdAelvitegravirraltegravirYH-53/GRL-2420の場合、可逆的な共有結合を形成し得るアリールケトンタイプのベンゾチアゾールケトン基が採用されている(図3)。また、システインプロテアーゼは、切断部位のN末端側の3~4残基を強く認識し、C末端側のアミノ酸残基との結合がそれほど強くないことから、一般的にP1~P3あるいはP1~P4部位を有する阻害剤がデザインされている。YH-53/GRL-2420の場合は、P1~P3部位を有し、また、warhead構造がベンゾチアゾールケトン基であるので、P1’部位も有する。 これまで研究されてきたMproを標的とした阻害剤は、P1部位にグルタミン誘導体であるピロリドンをもつ構造が多く存在する。これは基質のアミノ酸残基に相当するグルタミンのよいミミックであり、フレキシブルなグルタミン側鎖に比べ、より硬いラクタム環へ変換することで、標的のMproとの結合時にエントロピーの損失を減らし、阻害能を強めると考えられている。そのため筆者らはまず、P1部位を変えずに、P1’部位のベンゾチアゾールや、P3部位のインドールの置換基の構造活性相関研究を行った。主に、P1’部位やP3部位の芳香環にフッ素原子を導入した。一般的なフッ素原子導入効果としては、フッ素原子の電子求引性による近傍のアミド水素原子の酸性度上昇、水素原子がフッ素原子に置換されることによる疎水性の向上、酸化的代謝に対する抵抗性、フッ素原子による水素結合様の相互作用等があげられる。実際、種々のHIVの阻害剤にもフッ素原子がいくつか導入されており、有用性が確認されている(図3、右上)。構造活性相関研究の結果、顕著な活性をもつ化合物TKB198が見つかった9)。TKB198のMproとの共結晶X線構造解析により、化合物が想定どおりMproのポケットに収まり、Cys145と共有結合していること、複数の部位で水素結合をもつことが示唆された。また、P1’部位のベンゾチアゾール環の4位やP3部位のインドール環の7位に導入されたフッ素原子がMproのポケットの空間を埋めて効果的に相互作用していることがうかがえた(図4a)。したがって、P1’部位は4-フルオロベンゾチアゾールに固定した。筆者らがTKB198を見出したころ、ファイザー社がnirmatrelvirを創出した。Nirmatrelvirには、特徴的な非天然プロリン誘導体が含

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