175AUTHOR部落胆へとつながっている。2022年のアメリカにおけるベンチャーキャピタルなどからの投資が、前2年間と比べて20~30%減少したことと相まって、マイクロバイオーム分野における投資家の熱意も低くなり、多くの大手製薬企業も当該分野への大規模投資をためらうようになった。その結果、追加資金を調達できずに事業の終了を余儀なくされた企業、モノクローナル抗体・腫瘍溶解性ウイルス・mRNAなどの他の医薬品開発分野に軸足を移した企業、マイクロバイオーム関連の個別サービスを提供するビジネスモデルへの変更と追加を行った企業などが出現した。しかし、2023年になり、再び投資が活発になりつつある。これまでのパイオニア企業の成功と失敗を教訓に、マイクロバイオーム創薬研究が今後どのように展開されていくかが注目される。特定の機能をもつ腸内細菌や代謝物に焦点を当てたリダクショニズム(reductionism)は、作用機序(Mode of action:MOA)を明確にできるメリットがある。一方で、臨床試験においては、FMTやマイクロバイオームモジュレータの成績が良好なことから、腸内細菌叢全体としてのダイナミズムを考慮したホーリズム(Holism)という概念がマイクロバイオーム創薬の今後の鍵を握っていると考えている。参考文献 1) van Nood, E., et al. N. Engl. J. Med., 368, 407‒415 (2013) 2) Feuerstadt, P., et al., Am. J. Gastroenterol., 118, 1303‒1306 (2023) 3) Feuerstadt, P., et al., N. Engl. J. Med., 386, 220‒229 (2022) 4) Kim, Y.G., et al., Science, 356, 315‒319 (2017) 5) Dsouza, M., et al., Cell Host Microbe, 30, 583‒598 (2022) 6) Louie, T., et al., JAMA, 329, 1356‒1366 (2023) 7) Atarashi, K., et al., Nature, 500, 232‒236 (2013) 8) Tanoue, T., et al., Nature, 565, 600‒605 (2019) 9) Chen, Y., et al., Front. Immunol., 13, 935846 (2022)10) Dizman, N., et al., Nat. Med., 28, 704‒712 (2022)11) Aslam, S., et al., Open Forum Infect. Dis., 7, ofaa389 (2020)12) Mehmood Khan, F., et al., Hum. Vaccin. Immunother., 19, 2175519 (2023)金倫基(キム ユンギ)1977年 東京都生まれ2000年 北里大学薬学部卒業2005年 同大学院薬学研究科博士課程(微生物学専攻)修了2006年 University of Michigan Medical School(USA) Post-doctoral Fellow2011年 筑波大学医学医療系助教(免疫学)2013年 University of Michigan Medical School(USA) Research Investigator2015年 Vedanta Biosciences, Inc. (USA) Senior Scientist2016年 慶應義塾大学薬学部生化学講座専任准教授2018年 同薬学部創薬研究センター教授主な研究テーマ:腸内細菌が炎症性・代謝性疾患に与える影響の解明。マイクロバイオームモジュレータに関する研究。ホーリズム(Holism) あるシステム全体は、部分の総和以上のものである、すなわち、全体を部分や要素に還元することはできない、という概念である。全体論ともいう。全体を部分的・還元的に理解してもシステム全体の有機的なダイナミズムをとらえることはできないため、これを考慮にいれた考え方。 金倫基(慶應義塾大学薬学部)Copyright © 2023 The Pharmaceutical Society of Japanアミロイドーシス アミロイドーシスは、タンパク質の異常凝集体であるアミロイド線維を原因として発症する疾患の総称。アミロイド線維が複数の臓器に沈着する全身性アミロイドーシスと、脳などの中枢神経系にのみ沈着する限局性アミロイドーシスに大別される。代表例としては、アルツハイマー病(限局性)、パーキンソン病(限局性)、トランスサイレチン型アミロイドーシス(全身性)などがあげられ、現在、治療・診断法が確立されていない疾患が多く含まれるのが特徴である。原因物質であるアミロイド線維は、規則的な構造を有する針状の形態を示す結晶性の凝集体である。アミロイド線維が生体内において形成・沈着する分子機構は未解明の事柄が多く、医学・薬学・生化学・物理化学など、さまざまな観点中島吉太郎(大阪大学 大学院工学研究科)から根本的解決を目指し、日夜研究が行われている。 Copyright © 2023 The Pharmaceutical Society of JapanCopyright © 2023 The Pharmaceutical Society of Japan用語解説用語解説
元のページ ../index.html#23