5. 最後に174ムが、免疫チェックポイント阻害薬(immune checkpoint inhibitors:ICIs)による抗腫瘍免疫応答を増強できる可能性が動物実験で示唆され、大きな驚きと期待を集めた。現在は、腸内細菌が実際にヒトにおいて腫瘍免疫応答の増強効果を発揮するか、臨床試験結果を待っている状況である。 2021年にVedanta Biosciences社は、CD8陽性T細胞を活性化する11種類のヒト腸内細菌からなるVE8008)とBristol Myers Squibb社のICIであるオプジーボ®(ニボルマブ)との併用で、特定の種類の進行がんまたは転移がんの患者を対象とした第Ⅰ相試験を2021年に実施した。VE800は許容できる安全性と忍容性を示したが、第Ⅱ相試験以降に進むためにクリアしておきたい有効性の基準を満たしていなかった。同社は、VE800に応答する可能性のある患者(レスポンダー)グループを特定するために、第Ⅰ相試験で併用療法での効果が確認さ れた患者の血液、便、および腫瘍サンプルを解析している。韓国のGenome & Company社は、Pfizer社およびMerck社と協力して、動物実験にて厳選された腸内細菌株(Lactococcus lactis単菌製剤GEN-001)が9)、2企業の保有するICIsの効果を向上させるかどうかを評価するための第Ⅱ相試験を進めている。カナダのNubiyota社のLBPs(腸内細菌カクテル)であるMET-4も固形がん患者を対象にICIsとの併用で第Ⅰ相試験を行っている。さらに、ミヤリサン製薬株式会社は、酪酸産生菌であるClostridium butyricum MIYARI 588株(CBM588)とオプジーボ®+ヤーボイ®との併用による第Ⅰ相試験で安全性を確認するとともに、有効性の評価において、CBM588が無増悪生存期間を有意に延長し、ICI奏効率でも上昇傾向を示した10)。 一方で、LBPs開発を断念した企業も出てきている。がん免疫療法の有効性と関連していた、メラノーマ 患者の便由来の腸内細菌から構成されるSeres Therapeutics社のSER-401(オプジーボ®との併用、第Ⅰb相試験)、Bifidobacterium animalis ssp. lactis の単菌製剤であるアメリカEvelo Biosciences社のEDP1503(キートルーダ®との併用、第Ⅰ/Ⅱ,Ⅱa相試 験)や、STING(STimulator of INterferon Genes)経路を活性化するcyclic di-AMP(CDA)産生のE. coli Nissle株であるアメリカSynlogic社のSYNB1891(アテゾリズマブとの併用)などの候補LBPsの臨床試験の中止・中断が相次いだ。4-3.その他のモダリティ FMTやLBPs以外にも腸内マイクロバイオーム由来の低分子化合物やバクテリオファージ(ファージ)などをモダリティとした創薬研究が行われている。「マイクロバイオーム由来の分子(postbiotics:ポストバイオティクス)」に着目したアプローチでは、ディスカバリーから第Ⅰ相試験への移行率が非常に高いが、その後、第Ⅱ相試験での成功率が低い傾向がある。この現象の潜在的な理由として、中止された候補分子の多くが、経口投与用の低分子化合物や微生物酵素などであるが、これらの薬剤としての特性が乏しかったことがあげられる。しかし、これらの低分子化合物についてはよく知られた医薬品の化学骨格と類似することがしばしばあるため、安全性、有効性、そして、作用機序の予測が容易である可能性がある。一方、「マイクロバイオームモジュレータ(マイクロバイオームおよび腸内細菌の構成や代謝に影響を与える分子で、抗菌剤を除く、非マイクロバイオーム由来の物質)や化学物質やモノクローナル抗体など」は、全体的に非常に優れた成功率を示している。 ファージは、感染症に対する安全な治療法として、 経口・局所・静脈内投与されることが想定されているが11,12)、第Ⅰ相試験の成功率が比較的低いことが特徴的である。しかし、意外にも第Ⅱ相試験の成功率は、医薬品市場全体の成功率と同等となっている。イスラエルのBiomX社は、潰瘍性大腸炎と原発性硬化性胆管炎の両疾患と関連しているKlebsiella pneumoniaeを選択的に溶菌させるファージカクテルBX002を開発し、フェーズⅠa試験で11)、PFU(plaque forming units)投与の安全性を確認している。また、大腸がんとの関連が示唆されているFusobacterium nucleatumを選択的に溶菌させるファージも開発中で、現在、前臨床試験を行っ ている。クローン病患者における接着性侵入性大腸菌(adherent-invasive E. coli:AIEC)を標的としたファージ(EcoActive™)を開発するアメリカのIntralytix社 は、現在フェーズⅠ/Ⅱ試験を実施している。 腸内細菌叢の新たな機能が次々と明らかとなり、これらを治療目的で利用できるのではという発想が約10年前に生まれ、マイクロバイオーム創薬研究は大きな盛り上がりを見せたが、一方で、過度な期待ももたれた。そして、マイクロバイオーム創薬に対する楽観的予測は一
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