1734-2.LBPs LBPsは、特定の機能をもつ1~10数種類の腸内細菌コンソーシアムからなる生菌製剤で、腸内環境変化という観点ではFMTほどダイナミックな効果はないが、安全性・特異性・供給規模という面で優れたモダリティとなる可能性をもつ。しかし、特定の機能をもつ腸内細菌コンソーシアムの構成菌の種類や数など、合理的なデザインや最適化は非常に困難で、さらに、FMTと同等の臨床効果を要求されるため、LBPs開発は多くのハードルをもつ。FMT同様に、rCDIに有効なLBPsの開発 が他の疾患領域に先行して複数のバイオベンチャー企 業で行われていた。しかし現在は、前述のVedanta Biosciences社のVE303の第Ⅲ相試験が開始される 以外に、アメリカのSeres Therapeutics社やFinch Therapeutics社などのLBPs開発は、第Ⅰ~Ⅲ相試験で終了・中断している。確な疾患は今のところ見あたらない。3つ目は、オーストラリアのTGAおよびアメリカのFDAがFMT用の ヒト糞便サンプルの医薬品化に非常に協力的だったこ とである。両規制当局は、ヒトの便サンプルをそれぞれBiologicals(オーストラリア)およびBiological products(アメリカ)として、既存の枠組みの中に入れ、その中で医薬品としてどう規制していくかを開発企業とともに検討し、伴走した。世界で両国がいち早くFMT用ヒト糞便サンプルを医薬品化できたのも、規制当局の功績によるところも大きい。 ここで、これまでに承認されたすべてのFMT用のヒト糞便由来製品は、単一の適応症であるrCDIに対してのみ承認されていることに言及する必要がある。現在、複数の企業が、rCDI以外の幅広い疾患領域でFMTの効果を模索している。例えば、フランスのMaaT Pharma社が開発中のMaaT013(3~8人のドナー便の混合物)の移植片対宿主病(Graft-versus-host disease;GVHD)に対する第Ⅲ相試験が間もなく開始される。その他にも、炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease:IBD)、アトピー性皮膚炎、肝疾患、うつ病患者に対して、また、肺がん・黒色腫などの多様な腫瘍に有効な薬剤の補助療法として、複数の第Ⅰ相および第Ⅱ相試験が進行中である。しかし、これらのほとんどの疾患において、FMTの有効性や作用機序が未だはっきりしていない。それにもかかわらず、既存文献ではFMTに対する効果について、楽観的予測がなされている。 rCDI以外の他の適応症に対するLBPsの開発は遅れており、現在のところrCDI以上に有望で実績のある疾患領域はない。このような状況の中、rCDIに次ぐ積極的な創薬研究は、IBD領域で行われている。しかし、有望な効果が得られたという報告は残念ながら未だなされていない。前述のSeres Therapeutics社では、潰瘍性大腸炎に対するSER-287(ドナーの糞便をエタノール処理して得られる芽胞菌からなる腸内細菌コンソーシアム)が、第Ⅰb相試験で良好な結果が得られた。ところが、第Ⅱ相試験が不成功に終ったことを受け、別のLBP候補であったSER-301(特定の腸内細菌から構成されたコンソーシアム)の第Ⅰb相試験の計画も中断した。また、米国のFinch Therapeutics社もIBDのLBPs開発(FIN-524:潰瘍性大腸炎に有効なLBPs、FIN-525:クローン病に有効なLBPs)で武田薬品工業株式会社とパートナーシップを結んでいたが、2022年に終了した。武田薬品工業は2023年に完全にマイクロバイオーム創薬から撤退した。 一方で、いくつかのIBDプログラムについては今後の進展が期待されている。Vedanta Biosciences社は、2020年の第Ⅰb相試験で、制御性のT細胞を誘導する17種類のClostridium cluster IV & XIVaの腸内細菌コンソーシアムVE202製剤が7)、健康なボランティアの腸内で安全に定着することを確認した。さらに、2021年にPfizer社は、VE202の有効性試験(第Ⅱ相試験以降)への移行に関心をもち、Vedanta Biosciences社のシリーズDラウンドの資金調達の際に$2,500万の投資を行った。Vedanta Biosciences社は、健康なボランティアにおいて、VE202の抗炎症作用を予測する腸内細菌由来代謝物の産生も確認しており、現在、第Ⅱ相試験のための準備を進めている。ベルギーのMRM health社は、潰瘍性大腸炎に対する腸内細菌カクテル製剤(MH-002)の第Ⅱa相試験(軽症・中等症)で良好な結果を得てい る。さらに、英国のMicrobiotica社は、機械学習による腸内細菌コンソーシアムの合理的設計のためのプラットフォームを構築し、IBDのLBP候補を生み出した。同社は現在、Genentech社との長年にわたるパートナーシップのもと、シリーズBラウンドの資金調達にも成功し、第Ⅰ相試験を進めている。 腸管外疾患に対する腸内細菌の影響については、臨床上のデータがまだ乏しく、LBPs開発についても、腸管関連疾患であるrCDIやIBD領域ほど注力されている疾患は多くない。しかしその中で、腸内マイクロバイオー
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