MEDCHEM NEWS Vol.33 No.4
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5. 英国と日本との環境の違い167写真3 Ciulli研クリスマスパーティーの様子(2021年撮影)渉外担当者や法務担当者と行った。特に最初は慣れず非常に大変であったことを今でもはっきりと記憶しているが、このような経験は研究を行っているだけでは得られない貴重な機会であった。 Ciulli教授の専門は構造生物学であるが、分子生物学や創薬化学に対する造詣も深い。そのため、研究室には構造生物学だけでなく分子生物学や創薬化学の研究員も在籍しており、行われている研究は多岐にわたる。またラボスペースはケミストとバイオロジストのベンチが同じ部屋にあり、相互に連携が取りやすい構造になっている。またエーザイだけでなく、Boehringer IngelheimやAlmirallとの共同研究も行われており、研究内容に直接関連しない実験のノウハウなどの情報交換も頻繁に行われていた。PROTACは非常に注目を集めている領域であり、共同研究の拡大なども続いたことから、2022年には生命科学部のすぐ近くに標的タンパク質分解誘導薬(Protein degrader)研究に特化したCeTPD(Centre of Targeted Protein Degradation)が開設されている。そのような事情もあり、赴任当初は総勢20名弱であったラボメンバーは急激に増加し、現在80名近い大所帯となっている(写真3)。 筆者の派遣当初はプロジェクト担当者が一人しかいなかったため、合成だけではなく化合物評価系の構築や必要となるタンパク質の発現精製まで筆者が行うこととなった。なお、Ciulli研ではケミストもアッセイやタンパク質発現精製などを行うことが推奨、というよりほぼ義務であったため、筆者が合成以外の実験も行っていることは普通に受け止められていた。筆者もある程度覚悟をしていたとはいえ、タンパク質の発現精製はまったく経験のない分野であっただけでなく、行っていたタンパク質発現系の経験者が研究室内にいなかったため、近隣の研究室の研究員に教えを乞うなど、四苦八苦しながら研究を進めていた。ゲルのバンドからはじめて目的のタンパク質が検出できたときの嬉しさは、今でも忘れられない。また、PCRなどは学生時代にホットプレートを使って行った実習での経験しかなかったので、自動化されたPCR装置を見て「なんてハイテクな機械だ!」と感心していたところ、使い方を教えてくれたバイオロジストに笑われたのも良い思い出である。 海外で研究生活を送るうえで最も気になるところとしては、言語の壁、つまり英語の問題であろう。まず大学や研究機関で研究するうえでは、拙いながらもコミュニケーションを取れるのであれば、英国、米国ともにそこまで大きな問題とはならない。むしろ重要となるのはあなたの話に耳を傾けたくなるようなサイエンスの知識であり、それがあれば相手は頑張ってあなたの話を聞いてくれる。一方、日常生活に関しては若干状況が異なる。筆者が米国駐在時代に滞在していたボストンエリアはさまざまな国からの移民も多く、現地の人も拙い英語にある程度慣れているが、スコットランドの場合は特に都市部から少しでも離れると地元の方が大多数となるため、

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