MEDCHEM NEWS Vol.33 No.4
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ごうだ ゆきひろ昭和60年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了国立衛生試験所食品添加物部研究員、同主任研究官、同食品部第三室長、国立医薬品食品衛生研究所生薬部長、同薬品部長、同副所長を経て、令和2~5年同所長、薬事・食品衛生審議会(薬食審)委員、厚生科学審議会委員、日本学術会議連携会員医療系薬学分科会副委員長他MEDCHEM NEWS 33(4)153-153(2023)153年4回2、5、8、11月の1日発行 33巻4号 2023年11月1日発行 Print ISSN: 2432-8618 Online ISSN: 2432-8626国立医薬品食品衛生研究所 名誉所長薬事・食品衛生審議会 日本薬局方部会長合田 幸広 45年前の学生実習時、吸湿性物質の秤量について、ひどく困った記憶がある。天秤に秤量対象物をのせると、少しずつ重さが変化する。さらに配属された研究室で、物質の生理活性を質量あたりの比活性で比較するようになると、同様の問題で非常に困った。この問題は、研究者を続ける中で常に心の片隅にあり、国立医薬品食品衛生研究所で日本薬局方(日局)に関わるようになって以来、どこかで解決すべきと思っていた。日局では、吸湿性物質を定量するには、そのときの湿度で含水対象物の質量を秤量し、その後、乾燥減量を測定するか、カールフィッシャー法で水分含量を別に測定して、マスバランスの考えで補正することを基本としている。ただし前者では、乾燥後の秤量の際の吸湿はどうするかという問題について明確な解決策はなく、後者では貴重な試料を水分含量測定のために消費するという問題が残る。 しかしながら、天秤用の恒温恒湿箱の開発により、この問題は劇的に解決した。恒温恒湿箱中で物質を平衡になるまで吸湿させ、同箱の中で秤量し、測定対象物の物質量(モル数)を定量NMR法で測定すれば、再現性よくその物の恒温恒湿時の純度が判明する。恒温条件は多くの研究室で容易に実現可能で、恒湿条件も飽和塩溶液を利用することで再現可能なので、有機化合物では、いったん恒温恒湿時の純度がわかれば、同箱とNMRをもたないラボでも、わずかな変化に対し吸脱水速度が非常に速い化合物でない限り、秤量だけで正確なクロマトグラフィー用の検量線が書けることになる。あるいは、試薬会社等、物質提供側が溶液で分注し、溶媒乾燥後、定量NMR結果から得た容器中の物質のモル数を記載すれば、使用者は秤量せず溶解だけで検量線用の標準溶液作成が可能となる(本法はすでに日局で採用されている)。 さらに、定量NMRとHPLCを組み合わせ、測定対象物と非吸湿性の比較物質との間で単位物質量あたりの吸光係数比について事前に測定しておけば、非吸湿性の比較物質で測定対象物の検量線を作ることが可能で、この場合、ユーザーは、定量目的で吸湿性物質の秤量を行うことなく、比較物質の秤量で吸湿性物質の定量を行うことが可能となる。また、測定対象物について保存期間中に分解するような化合物であったとしても、分解前に非吸湿性の比較物質との間で同様の吸光係数比を決めておけば、比較物質で作った検量線で測定対象物について正確な定量(純度確認)を行うことができる。このような手法はRMS(Relative Molar Sensitivity)法と称されるが、すでに日局では、同法を利用した定量法が採用されている。 第18改正日局第二追補では、さらに一般試験法「はかりと分銅」の項についても改正を行う予定であり、関連参考情報も追加される。秤量と定量は、科学の基礎であるが、日局においても機器の開発と手法の進歩に対応し、より精確な秤量と定量が行われるように努めている。Yukihiro GodaEmeritus Director General, National Institute of Health SciencesChair, The Committee on the Japanese PharmacopoeiaCopyright © 2023 The Pharmaceutical Society of Japan公益社団法人 日本薬学会 医薬化学部会NO.4Vol.33 NOVEMBER 2023秤量と定量

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