4. 低分子創薬分野における取り組みしている。2021年以降は、協業はより包括的な体制へと進展し、同社のAIプラットフォームへアクセス可能な環境と両社の研究者が緊密にコミュニケーション可能な関係を構築するに至っている。2018年に開始した共同研究からは、非臨床試験でProofofConceptを取得した事例などの成果が認められており、複数の疾患領域で新薬候補を見出すためのプロジェクトを進めている。 これらの協業以外にも、当社はベンチャーキャピタル(VC)ファンドへの出資やコーポレートベンチャーキャピタル活動も開始しており、これらの活動を通じて得られた接点からも新たな強みを獲得する機会を探索している。実際に、VCファンドへの出資を通じた活動から、高機能のミトコンドリアを利用する新たな創薬モダリティへのアクセスとして、独自技術を有するルカ・サイエンス株式会社(本社:東京都中央区)とのミトコンドリア病の治療に関する共同研究を昨年より開始した。 このように最先端の技術に対しても当社はこれまで以上に常に高いアンテナを張り、外部の強みを取り込みながら新たな強みを生み出すことで、Life-changingな価値の継続的な創出に向けた挑戦を続けている。本項の最後に、本年から開始した東京工業大学生命理工学院との創薬技術の研究開発に関する連携について紹介したい。ご存知のとおり、東京工業大学生命理工学院は、生命科学分野でトップクラスの卓越した技術シーズを有する国内屈指のアカデミアの一つである。本連携では、クロスアポイントメント制度を活用し、東京工業大学の教員が当社の社員となり、当社の研究拠点の一つである東京リサーチパーク(東京都町田市)にて研究を行うことを特徴の一つとしている。そして、東京工業大学のすずかけ台キャンパス(神奈川県横浜市)と東京リサーチパークという近接した地の利を活かしたアカデミア研究者と企業研究者間の異文化交流により、最先端創薬技術および新たなアイデアへの着想や成長機会を獲得する独自の創薬エコシステムを構築していく。 今後も、協和キリンはライフサイエンスとテクノロジーに注力するパートナーとの密で効果的な連携を推進し、日本発の画期的な医薬品創製を実現していきたい。 MEDCHEMNEWSの読者には創薬化学者が多くおられることを考慮し、当社の低分子創薬分野における取り組みについても触れておきたい。 低分子創薬分野についても、前述の研究開発コンセプトに基づいた活動を行っており、技術軸では、創薬化学技術の“進化”と“深化”に取り組んでいる。技術の“進化”の面では、モダリティ合成技術への取り組みがあげられる。前述のADCなどのバイオ医薬品研究との融合モダリティ合成技術に加え、創薬化学を基盤とした次世代モダリティ技術の確立として、mRNAや修飾タンパク質といった複雑なモダリティの化学合成技術確立に向けたチャレンジを進めている。一方、技術の“深化”としては、データサイエンス/AI活用に取り組んでいる。各種データを用いた学習モデルを構築し、化合物の活性・副作用予測や化合物デザインの最適化および実際に合成すべき化合物の絞り込みに関する創薬技術開発に取り組んでいる。 疾患軸としては、疾患インテリジェンスの強みも加味したデータ駆動型創薬技術の活用による新規創薬標的の掘り起こしを行っている。本取り組みは必ずしも低分子創薬分野に限ったものではないが、ゲノム情報や多層オミックス解析技術、化合物情報といった幅広いインフォマティクスの活用や低分子以外のsiRNA(smallinterferingRNA)やsgRNA(singleguideRNA)ライブラリーを用いるスクリーニングに取り組んでいる。さらには、表現型スクリーニングで見出した薬理活性化合物を起点とする作用メカニズム解析やケミカルバイオロジーの技術活用による標的分子同定を通じた新しい創薬標的の探索を進めている。 そして、技術軸と疾患軸の取り組みとの掛け合わせとなるオープンイノベーション活動としては、前述のInveniAI社との包括的な協業による新規標的・新規適応疾患の探索、AxceleadDDPやxFOREST社と戦略的な提携によるRNA構造を標的とする革新的な低分子創薬研究、および名古屋大学物質理学専攻化学系の阿部洋教授との共同研究によるmRNAの化学合成技術開発などが進行中である。 このように低分子創薬分野においても、技術軸、疾患軸、オープンイノベーションの縦横連携による、Technology-driven創薬のコンセプトに基づく「Chemistry-driven創薬」を実践している。今後も外部に存在する優れた技術に目を向けながら自社の強みと融合させ、革新的な低分子創薬技術基盤を確立することで、Life-changingな価値の継続的な創出に貢献していきたい。109
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