MEDCHEM NEWS Vol.33 No.3
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4. おわりにAUTHOR(LBDD)で、所望のshapeを有する新規リガンドを取得する一般的な方法として、網羅的に多数の分子を発生させた後、既知リガンドに対する3Dshapeの類似性を評価指標として化合物を選抜する手法がある。さらに得られた評価結果を利用して、次第に望ましいshapeを有する分子を多く発生するようにモデルのさらなる学習を繰り返す手法も多く報告されている。 今回演者らは新しいアプローチとして、標的とするshapeを生成モデルに前提条件として与え、直接3Dにて分子を発生させることで、条件を満たす新規化合物を効率的に取得できる手法を構築した(Shape-ConditionedEquivariantGeneratorforDrug-LikeMolecules,SQUID)。今回のモデル開発の鍵の一つは、もともと飛行機や椅子のような物体の3D形状認識を意図して提案されたVectorNeuronNetwork(VNN)4)という技術を分子のshapeを扱う課題へ応用したことであった。分子発生は、足場となる初期構造を与えることから始まる。SQUIDは標的のshapeと足場に基づき、次に付加すべきフラグメントや置換位置についての確率分布を出力し、それらからのサンプリングにより分子を伸長させる。これを新たな足場として、フラグメントの付加を繰り返していくことで分子全体を構築する。分子の文字列表現であるSMILESの生成モデルや、フラグメントの網羅的な探索とは一線を画す手法であり、例えば標的タンパク質の結合サイトの形状を利用したStructure-BasedDrugDesign(SBDD)への応用等、LBDDだけに留まらず今後のさらなる展開が期待される。 今回、ACSNationalMeetingに参加し、これまで新小脳長期抑圧 長期抑圧とは、神経活動に依存して神経細胞間の情報伝達効率が変化するシナプス可塑性の一種。小脳長期抑圧では、平行線維とプルキンエ細胞間のシナプスの伝達効率が長期にわたって低下する。小脳長期抑圧により、意図した運動と実際に起こっている運動のずれを補正することで、運動学習に寄与すると考えられている。その分子メカニズムは、プルキンエ細胞のシナプス後部に発現するAMPA受容体数の減少によって起こると考えられている。参考文献1)Herrmann,F.E.,et al.,Front. Pharmacol.,13,838449(2022)2)Maher,T.M.,et al.,ERJ Open Res.,8,00240‒2022(2022)3)Richeldi,L.,et al.,N. Engl. J. Med.,386,2178‒2187(2022)4)Deng,C.,et al.,In Proceedings of the IEEE/CVF International Conference on Computer Vision,12200‒12209(2021)たに開拓されてきた多様な創薬モダリティが確実に定着し、進化していることを実感しただけでなく、創薬手法についても、化合物創製や最適化ステージにおける計算機化学・情報化学分野の技術に大きな発展が感じられた。しかし、そのような新しい考え方・技術の飛躍的な進歩がありながらも、現状、創薬の難易度はさらに上昇し、以前にも増して成功確率の低下が叫ばれている。今後、製薬企業は、どのようなモダリティ・技術を特徴とした強みを打ち出して壁を乗り越えていくか、その岐路に差し掛かっているといえるであろう。我々創薬研究者の目的は、“一人でも多くの患者の皆様に、一日でも早く新しい治療選択肢を提供する”ことである。この目的を見失うことなく俯瞰した視点をもち、多岐にわたる分野より“Crossroads”にて集積された最先端の情報を自らの創薬活動に活かして邁進していきたい。三浦智也(みうら ともや)2002年北海道大学大学院理学研究科博士課程修了同 年日本たばこ産業株式会社入社2019年より現職清中茂樹(名古屋大学大学院工学研究科)Copyright © 2023 The Pharmaceutical Society of JapanCopyright © 2023 The Pharmaceutical Society of Japan146用語解説

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