AUTHORが空間的に近くに位置していたため、T748に対して立体障害の大きなトリプトファン残基(Trp:W)を変異導入した(図4C)。作製したmGlu1変異体(T748W)をHEK293細胞に一過性発現させ、FITMによる阻害スクリーニングを実施したところ、野生型mGlu1と比較してT748W変異体においてはFITMの阻害能が5倍程度低下した(図4D)。筆者らはこの結果をTrpとFITMのイソプロピル基との立体反発による親和性の低下に起因すると考え、FITMのイソプロピル部位にも立体的に大きな置換基の導入を試みた。各種FITM誘導体による阻害スクリーニングを行った結果、FITMのイソプロピル部位を3-ペンチルに置換した化合物(FPET)(図4A)が野生型mGlu1の活性を0.3μMで完全に阻害するのに対し、T748W変異体は30μM処置してもその活性をまったく阻害しないという結果を得た(図4E)(堂浦ら、未発表データ)。グルタミン酸受容体としての機能は、T748W変異体と野生型mGlu1は同程度であるため(図4F)、T748W変異体は筆者らの理想どおりmGlu1の受容体機能を維持しながらFPETに対する薬理作用のみが野生型と大きく異なる変異体となっている。また、今回見出したFPETはFITMにメチレン基が2つ追加された類縁体であり、構造の類似性が高い。そのため、FPETはFITMと同様に優れた薬物動態を示すことが予想され、現在は本手法のinvivo適用に取り組んでいる。6. おわりに 筆者らが開発した配位ケモジェネティクスは、グルタミン酸受容体に共通する構造変化に着目した人為的な活性制御法である。本論で焦点をあてたmGlu1に加え、イオンチャネル型グルタミン酸受容体であるAMPA受容体においても配位ケモジェネティクスを適用し活性制御することに成功しており12)、今後も他のグルタミン酸受容体サブタイプの活性制御に対する適用拡大が期待される。近年の構造生物学の進展により、多くの受容体が活性化の際に特徴的な構造変化を伴うことが明らかとなってきている。その構造情報を利用すれば、これまでリガンドの同定されていないオーファン受容体に対しても活性化時の構造変化を配位ケモジェネティクスで模倣し人為的に活性制御できると期待され、未知の生命現象の理解につながることが期待される。参考文献1)E.S.Boyden,et al.,Nat. Neurosci.,8,1263‒1268(2005)2)R.D.Airan,et al.,Nature,458,1025‒1029(2009)3)Y.Miura,et al.,RSC Chem. Biol.,3,269‒287(2022)4)B.N.Armbruster,et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,104,5163‒5168(2007)5)C.J.Magnus,et al.,Science,333,1292‒1296(2011)6)N.Kunishima,et al.,Nature,407,971‒977(2000)7)D.Tsuchiya,et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA,99,2660‒2665(2002)8)A.Aiba,et al.,Cell,79,377‒388(1994)9)F.Conquet,et al.,Nature,372,237‒243(1994)10)T.Ichise,et al.,Science,288,1832‒1835(2000)11)Y.Ohtani,et al.,J. Neurosci.,34,2702‒2712(2014)12)S.Kiyonaka,et al.,Nat. Chem.,8,958‒967(2016)13)K.Ojima,et al.,Nat. Commun.,13,3167(2022)14)A.R.Kapdi,et al.,Chem. Soc. Rev.,43,4751‒4777(2014)15)M.H.Karakossian,et al.,J. Neurophysiol.,92,1558‒1565(2004)16)H.Kubota,et al.,PLOS ONE,9,e106316(2014)17)T.T.Fu,et al.,Acta Pharmacol. Sin.,42,1354‒1367(2021)18)A.Satoh,et al.,Bioorg. Med. Chem. Lett.,19,5464‒5468(2009)19)T.Yamasaki,et al.,Eur. J. Nucl. Med. Mol. Imaging,39,632‒641(2012)20)H.Wu,et al.,Science,344,58‒64(2014) 薬物動態が既知の小分子リガンドを利用したmGlu1のケモジェネティクスでは、HEK293細胞においてmGlu1変異体選択的な活性制御に成功している。現在、マウス個体でのmGlu1の活性制御に取り組んでおり、初期的な結果が得られている。本手法はすべてのGPCRに共通する7TMDに着目した活性制御法であるため、さまざまなGPCRを対象とする分子標的ケモジェネティクスへの展開が期待される。清中茂樹(きよなか しげき)2002年九州大学大学院工学府物質創造工学専攻博士課堂浦智裕(どううらともひろ)2012年九州大学大学院工学府物質創造工学専攻博士後程修了博士(工学)2003年岡崎国立共同研究機構生理学研究所学振PD2005年京都大学大学院工学研究科助手(助教)2010年京都大学大学院工学研究科准教授2011-15年 京都大学大学院地球環境学堂准教授を兼任2019年より現職期過程修了博士(工学)同 年東京大学大学院医学系研究科特任研究員2014年千葉大学大学院薬学研究院特任助教2016年山口大学大学院医学系研究科助教2018年東京薬科大学薬学部嘱託助教2019年名古屋大学大学院工学研究科特任助教2020年より現職Copyright © 2023 The Pharmaceutical Society of Japan141
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