MEDCHEM NEWS Vol.33 No.3
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図4  薬物動態が既知のリガンドを用いたmGlu1の活性制御 剤として作用することを確認し、配位ケモジェネティクスをmGlu1の阻害系に展開することが可能となった(三浦ら、未発表データ)。現在、細胞種選択的なグルタミン酸受容体の活性阻害へと展開している。5. 動物個体内におけるmGlu1の活性制御を 指向した分子標的ケモジェネティクスの構築 配位ケモジェネティクスがmGlu1の細胞種選択的な人為的活性化と阻害に有用であることを示してきた。配位ケモジェネティクスはタンパク質の構造変化を利用したケモジェネティクスであるため、幅広いタンパク質の活性制御に利用できると期待される。実際に、脳組織への適用に向けてPd(sulfo-bpy)による低毒性化を実現したが、invivo適用を考慮すると体内での薬物動態や代謝など、検討(克服)すべき多くの課題が存在する。そのため筆者らは、動物個体内における薬物動態が既知のリガンドを利用した分子標的ケモジェネティクスの構築を新たに開始した。 mGlu1はグルタミン酸の結合部位であるLBDとGPCRに共通する7回膜貫通ドメイン(7TMD)からなる。7TMDはmGlu1のアロステリックサイトとして知られ、7TMDに結合するアロステリック作動薬が多数開発されている17)。その中の一つにmGlu1のネガティブアロステリックモジュレーターであるFITMがあり、mGlu1に高い親和性で結合して不活性化する(図4A)18)。また、[18F]FITMを用いたPET実験などから、FITMは高い血液脳関門(BBB)透過能および高い生体安定性などの優れた薬物動態を示すことが確認されている19)。また、FITM結合部位である7TMDはLBDと大きく離れたところに位置するため、FITM結合位置への変異導入はmGlu1のグルタミン酸作動性に影響を及ぼさないことが期待される。そのため筆者らは、mGlu1への変異導入によってFITMやその類縁体のmGlu1への作動性を変化させることにより、変異mGlu1選択的に活性制御可能なケモジェネティクスの開発を行っている。 FITMとmGlu17TMDとの共結晶構造解析から、FITMの結合部位近傍には細胞外ループ2(ECL2)が存在することが明らかとなっている(図4B)20)。筆者らは、変異導入によるタンパク質への摂動を最小限に留めるためには、比較的構造の柔軟性が高く細胞外に面したループ領域への変異導入が適していると考え、そのECL2に着目した。FITMのイソプロピル部位とECL2上のスレオニン残基(Thr748:T748)のアミノ酸側鎖140(A)FITMとその構造類似体(FPET)の構造。(B)mGlu1と阻害剤FITMの複合体構造(PDB:4OR2)。(C)FPETによるmGlu1野生型選択的な活性阻害。(D)FITMによるmGlu1活性阻害の用量反応曲線(黒:野生型、グレー:T748W変異体)。(E)FPETによるmGlu1活性阻害の用量反応曲線(黒:野生型、グレー:T748W変異体)。(F)グルタミン酸によるmGlu1活性化の用量反応曲線(黒:野生型、グレー:T748W変異体)。

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