MEDCHEM NEWS Vol.33 No.3
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(A)mGlu1野生型のグルタミン酸結合に伴う構造変化の模式図。(B)配位ケモジェネティクスによるmGlu1(N264H)変異体の 人為的な活性化。(C)Pd(bpy)の構造。(D)mGlu1野生型とN264H変異体に対するPd(bpy)の用量反応曲線。る。そのため筆者らは、特定の細胞種に内在的に発現する標的受容体を選択的に制御することを目指した「分子標的ケモジェネティクス」の構築に取り組んでおり、本稿ではその最新の研究成果について紹介する。2. グルタミン酸受容体の活性化機構に着目した  グルタミン酸は中枢神経系において興奮性神経伝達を担う重要な神経伝達物質である。グルタミン酸を内在リガンドとするグルタミン酸受容体はイオンチャネル型と代謝型(GPCR型)に分類されるが、いずれも高次脳機能において中心的な役割を果たしており、発現する細胞種によって異なる生理機能に関与することが知られている。 グルタミン酸受容体は共通する構造的特徴と活性化機構を有している。グルタミン酸受容体は細胞外にリガンド結合ドメイン(LBD)をもつ。グルタミン酸非存在下においては、LBDは大きく口を開いた開構造を形成するが、グルタミン酸を認識すると閉構造へと大きく構造変化し、受容体は活性化状態へ移行する(図2A)6,7)。そのため、LBDを人為的に閉構造へ導くことができればグルタミン酸受容体を自在に制御できると考えられる。この仮説に基づいて筆者らは、グルタミン酸受容体のLBDに金属錯体の認識サイトを変異導入し、金属錯体との配位結合を駆動力として閉構造を安定化することで、人為的にグルタミン酸受容体を活性化させることを考案した(図2B)。この「配位ケモジェネティクス」では、グルタミン酸結合時に構造が大きく変化するLBDの上下に配位性アミノ酸を変異導入した変異受容体を作製する。人為的活性化に必要な最小限の配位性アミノ酸をグルタミン酸の結合サイトから離れた位置に導入することによ137図1  マウス(動物個体)の脳内における階層構造とシナプスの構成要素図2  配位ケモジェネティクスによるmGlu1の活性制御 配位ケモジェネティクスの構築

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