くODSカラムクロマトグラフィーを用いて、E7130を11.5g(カップリング工程から44%)、純度99.8%以上で得ることに成功した。総工程数は市販の原料から92工程に短縮された。本製法により、GMP管理下での厳格な製造と品質管理の下、治験薬として使用できるE7130の供給体制を構築できた。3. ハーバード大学・エーザイの協働と 前項の製法改良やスケールアップは、通常であれば薬剤の開発ステージに合わせて段階的に実施される。しかしE7130の場合、その構造の複雑さから検討に時間がかかることが想定され、各段階で年単位を要する可能性もあった。そこで、探索研究中のE7130第1世代全合成と並行して製法改良検討が開始された(図3)。ハーバード大学・エーザイ双方で検討が重ねられ、隔週のミーティングやメール等で情報は常に共有・アップデートされた。さらに、複数のエーザイ研究者がハーバード大学を訪問して検討に加わり、帰国してノウハウをエーザイにもたらした。最大20名を超える研究員が総力を挙げ、各世代の合成法改良、DRFロット合成、標準品製造、スケールアップ検討、GMP-1st製造を連続あるいは並行して完遂した。この常識を超えた体制により、E7130最初のミリグラム全合成からわずか1年半でGMP-1st製造完了というスピードが実現できた。成功のカギは、ハーバード大学の最先端の有機合成化学とエーザイのメディシナルケミストリー力とプロセス開発力を生かした協働、すなわちアカデミアとインダストリー双方の強みの融合であった。この前例のない取り組みの結果、候補化合物選定と製造ルート構築、スケールアップを短期間で達成し、ハリコンドリン由来の新規抗がん剤候補化合物E7130の10gスケールでの全合成に成功した。4. おわりに 今回得たE7130を治験薬として、現在、国内で第一相臨床試験(頭頚部がん、尿路上皮がん)が進行中である。E7130の臨床導入成功により、ハリコンドリン類のような極めて複雑な構造を有する化合物であっても、有機合成化学の力で医薬品開発の道を拓くことが可能であることを示すことができた。常識を超えたスピード感をもった創薬の実現は、われわれ企業研究者の意識改革にもつながった。E7130の開発を進めるとともに、一日でも早い新薬開発を通じて世界中の薬を待っている患者様・生活者の皆様に貢献していきたい。謝辞 本研究に尽力されたハーバード大学およびエーザイの数多くの研究者の方々に厚く御礼申し上げます。 本プロジェクトの発足時から精力的にご指導いただいた岸義人教授が2023年1月9日にご逝去されました。ご生前のご厚情に深く感謝し、安らかなご永眠をお祈りいたします。134図3 ハーバード-エーザイの協働とタイムライン概略プロセス開発の実現
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