MEDCHEM NEWS Vol.33 No.3
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〔SUMMARY〕Keyword E7130, Halichondrin, total synthesis, process research, GMP manufacturing *1 エーザイ株式会社 Deep Human Biology Learning PPDファンクション *2 ハーバード大学 名誉教授 Morris Loeb Professor of Chemistry Emeritus, Harvard University大橋功Isao Ohashi*1・岸義人Yoshito Kishi*2 ハリコンドリン類は、複雑かつユニークな構造を有する海洋産ポリエーテルマクロライドであり、抗がん作用を期待されたが、開発に必要な化合物量の確保が困難であった。近年、ハーバード大学が主導する全合成研究の進展を受けて、ハリコンドリン類からの創薬研究に再挑戦し、全合成を通じて医薬品候補化合物E7130を見出した。ハーバード大学とエーザイの緊密なコラボレーション、タイムリーな情報共有、総力をかけたプロセス研究により、創薬研究初期のミリグラムスケールのE7130全合成から約1年半で、グラムスケールでのGMP製造を達成した。本製造ではHPLC精製を一切行うことなく高純度(99.8%)のE7130原薬をGMP管理下にて11.5g得ることに成功し、第一相臨床試験に使用された。Halichondrinsaremarinepolyethermacrolideswithcomplexanduniquestructures.Despitetheirpromisingin vivoanti-cancerefficacy,thelimitedsupplyfromthenaturalsourceshaspreventeddrugdevelopmentwithintacthalichondrins.Alternatively,recentstudieshaveshownthattotalsynthesisofhalichondrinscouldsolvetheproblemoflimitedmaterialsupply.Thishasencourageddrugdiscovery/developmenteffortsusingintacthalichondrinsandhasledtotheidentificationofE7130asapromisinganti-cancerdrugcandidatethroughtotalsynthesis.Throughclosecollaboration,timelyinformationsharing,andintensiveprocessresearchbetweenHarvardUniversityandEisai,GMPmanufacturingofE7130wasachievedonmulti-gramscaleinabout1.5yearsfromitstotalsynthesisonamilligramscaleintheearlystagesofdrugdiscovery.Inthismanufacturing,11.5gofhighlypure(99.8%)E7130drugsubstancewassuccessfullysynthesizedwithoutanyHPLCpurification,whichwasusedinaPhase1clinicaltrial.2-1.第1世代全合成(ミリグラムスケール) E7130の最初の全合成は、1992年のハリコンドリン類の初の全合成法7〜9)を一部変更して実施した。左右のフラグメントを野崎-檜山-岸(NHK)反応でカップリングし、生じた2級アルコールの酸化、続く脱保護によりC44位環状ケタール化、C40位分子内オキシマイケル反応、C38位環状ケタール化の3つの環化反応が順次進行し、その後、Alloc基の脱保護、HPLC精製を経た(図1(a))6)。E7130は、主鎖52炭素原子のうち31個が不斉炭素であること、末端にアミノ基を有していること、分子量が1000を超える中分子であるといった構造上の特徴があり、本化合物を医薬品として開発することはこれまでにない大きな挑戦である。本稿では、ハーバード大学との協働による、E7130の最初の合成からスケールアップ検討、グラムスケール合成による高純度のGMP製造(図1(b))の成功までを概説したい。2. E7130の全合成1.はじめに ハリコンドリン類は、1985年に日本のクロイソカイメンから単離された複雑かつユニークな構造を有するポリエーテルマクロライドである1,2)。invitroでさまざまながん細胞株に対し強力な細胞毒性を示し、invivoで最も強い活性を示したハリコンドリンBは新規抗がん剤として期待された(図1(a))。しかし、1990年代当時は天然からの採取、養殖、化学合成のいずれによっても医薬品開発に必要な量の化合物を確保できず、開発は頓挫した。一方、近年、ハーバード大学によりハリコンドリン類の全合成研究が進展している3〜5)。そこで、筆者らはハリコンドリン類からの創薬に再挑戦し、全合成による探索研究ののち、医薬品候補化合物E7130を見出しPSTユニット 原薬研究部 主任研究員Senior Scientist, PST Unit, API Research, PPD Function, Deep Human Biology Learning, Eisai Co., Ltd.Gram-Scale Synthesis of Anticancer Drug Candidate E7130 to Supply Clinical Trials132MEDCHEM NEWS 33(3)132-135(2023)新規抗がん剤候補物質E7130のグラムスケール合成と治験用原薬供給

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