〔SUMMARY〕Keyword HDAC2 inhibitor, FBDD, neurodegenerative diseases*1 大塚製薬株式会社 大阪創薬研究センター 探索合成研究所 研究員 *2 大塚製薬株式会社 徳島創薬研究センター 創薬化学研究所 主任研究員 *3 Director, Department of Medicinal Chemistry, Astex Pharmaceuticals*4 Director, Department of Molecular Science, Astex Pharmaceuticals玉井太一Taichi Tamai*1・石川俊平Shunpei Ishikawa*2・宮村伸Shin Miyamura*2・Emiliano Tamanini*3・Dominic Tisi*4 ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は、エピジェネティックな遺伝子の制御において重要な役割を果たし、神経変性疾患など、多くの疾患の治療標的として注目されている。特にHDAC2はヒストンアセチル化の低下と、それに伴う学習・記憶に関連する主要遺伝子の発現低下への関与が報告されており、中枢移行性を有するHDAC2阻害剤を開発することが、神経変性疾患の治療に有益であることを示唆している。筆者らは、フラグメントベース(FBDD)を首尾よく活用し、新規で中枢移行性と活性を兼ね備えるHDAC2阻害剤を見出した。タンパク質-リガンド複合体X線結晶構造情報を利用した構造ベース創薬(SBDD)により、中枢薬として適したプロファイルを維持しつつ、初期のフラグメントヒットから活性を大幅に改善させ、in vitroおよびin vivoにおいて薬効を示すリード化合物へと導いたので紹介する。Histonedeacetylase(HDAC)enzymesplayakeyroleinpost-translationalmodificationswhichmakesthemimportanttherapeutictargetsforanumberofindicationsincludingneurodegeneration.HDAC2wasfoundtoberesponsibleforthereductionofhistoneacetylationresultingindecreasedexpressionofkeygenesassociatedwithlearningandmemory.Thesefindingssuggestthattargetingthisclassofepigenetictargets,inparticularthedevelopmentofabrainpenetrantHDAC2inhibitor,couldbebeneficialforthetreatmentofneurodegenerativediseases.Wesuccessfullyappliedourfragment-baseddrugdiscovery(FBDD)platformtoidentifyanovel,potentandbrainpenetrantHDAC2inhibitor.Structure-baseddrugdesign(SBDD)guidedbythenumerousprotein-ligandcomplexcrystalstructuresallowedustosignificantlyimprovethebindingaffinityoftheinitialfragmenthitwhilemaintainingidealphysicochemicalpropertiesforCNSindications.TheresultingleadcompoundiscapableofsignificantlyincreasehistoneH4K12acetylationlevelsin vitroandin vivo.失することが報告されている。これらのことから、中枢移行性のHDAC2阻害剤を開発することが、神経変性疾患の治療に有益であると考えられる2)。 現在までに4種類のHDAC阻害剤(Vorinostat、Panobinostat、Belinostat、Romidepsin)ががん治療薬としてFDAから承認されているが、ほぼすべての薬剤がヒドロキサム酸型の亜鉛結合基(ZincBinder)をもつという共通点がある(図1)3)。ヒドロキサム酸構造は中枢移行性を低下させるだけでなく、血小板減少、下痢、吐き気、疲労などの副作用が現れることがあり、神経変性疾患の治療に必要な長期投与には不向きである。そこで、筆者らはAstex社と協業することによってフラグメントベース(FBDD)プラットフォームをこのターゲットに適用し、中枢移行性のある新規なケモタイプのHDAC2阻害剤の開発を目指し、創薬研究を開始した。1.はじめに ヒストンのアセチル化-脱アセチル化過程は、クロマチンの弛緩、遺伝子発現の制御に不可欠である1)。例えば、アルツハイマー病患者およびアルツハイマー病モデルマウス(CK-p25および5xFADマウス)の脳では、ヒストン脱アセチル化酵素(Histonedeacetylase:HDAC)、特にHDAC2のレベルが増加していることが明らかにされている。HDAC2をノックダウンすると、鍵となる遺伝子の発現が増加することに伴って、シナプス可塑性が改善し、CK-p25マウスの神経変性に伴う記憶障害が消Researcher, Department of Exploratory Chemistry, Osaka Research Center for Drug Discovery, Otsuka Pharmaceutical Co., Ltd.Senior Researcher, Department of Medicinal Chemistry, Tokushima Research Center for Drug Discovery, Otsuka Pharmaceutical Co., Ltd.Fragment-based discovery of a novel, brain penetrant, orally active HDAC2 inhibitorMEDCHEM NEWS 33(3)127-131(2023)127フラグメント創薬による中枢移行性を有する 新規経口HDAC2阻害剤の開発
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