AUTHOR89と思われ、わが国でも先進的な製薬や食品における取り組みがなされ、発展が期待されている。 2015年米国大統領オバマによるPrecision Medicine Initiativeにより、グローバルにも先端がん個別化医療としてのプレシジョンメディシンが急速に展開されている。現時点におけるプレシジョンメディシンの主な基盤は患者のオミクス情報であり、薬物治療応答性を予測しようとするものである。しかし、患者オミクス情報と既知の医学医療情報による個別化医療は統計学的予測力に依存するため、その精度向上には、多数の患者の大量のオミクス情報が不可欠であり、膨大なコストと時間が不可欠となる。一方、ゼブラフィッシュ創薬の有効性が明らかになりつつある薬理フェノミクスとして、先端がんプレシジョンメディシンにおいては、患者がん移植モデル(PDX)を活用することが国際的に急激な発展を示している。1970年代から米国国立がん研究所で開始されたヒト臨床がん株化細胞培養による新しい治療薬開発は満足すべきものでないことから、国際的にも患者がん移植モデルへ大きくシフトしている18)。 現在、世界では高度免疫不全マウスによる患者がん移植モデル(PDX mouse model)が圧倒的に活用されているが、いくつかの課題があり、正常免疫であるゼブラフィッシュによる新しい患者がん移植モデル動物(PDX zebrafish model)として、筆者らなどが挑戦してい る19,20)。すなわち高度免疫不全マウスと比較して、ゼブラフィッシュへの患者がん移植の圧倒的な生着率や生着スピードが、免疫システムが未熟な受精後36時間以内に移植すれば実現すること、移植に必要なヒトがん細胞が100個以下であり、2日間で薬効が定量解析できるなどの利点から、筆者らをはじめ世界で患者がん検体のゼブラフィッシュ移植が試みられている19,20)。これら臨床患者由来がんのゼブラフィッシュ移植システム(PDX zebrafish model)は、PDX mouse modelより圧倒的に迅速な治療薬感受性試験が実現しており、抗がん薬選択のための臨床体外診断システムとして、次世代個別化医療ツールになることが明らかにされている。従来の個別化医療は、遺伝子多型(ゲノム)、遺伝子発現レベル (トランスクリプトーム)、プロテオーム、メタボロームなどのオミクスを基盤とした大規模集団統計学の予測により構築されようとしてきた。一方、臨床がん移植ゼブラフィッシュによる個別化医療は、各患者がん検体のフェノミクス解析結果をその患者の治療薬選択にリアルタイムで活用することができ、真の次世代プレシジョンメディシンであるといえる。参考文献 1) R.K, Harrison, Nat. Rev. Drug Discov., 15, 817‒818 (2016) 2) J. Arrowsmith, et al., Nat. Rev. Drug Discov., 12, 569 (2013) 3) 医薬品開発における創薬スクリーニング関連技術開発, 情報機構, 120‒132 (2019) 4) 田中利男ら, 日本薬理学雑誌,. 154, 78‒83 (2019) 5) S. Chowdhury, et al., J. Med. Chem., 61, 84‒97 (2018) 6) E.E. Patton et al., Nat. Rev. Drug Discov., 20, 611‒628 (2021) 7) D. Zizioli, et al., Biochim. Biophys. Acta Mol. Basis Dis., 1865, 620‒633 (2019) 8) R.M. White, et al., Nature, 471, 518‒522 (2011) 9) M. Rocha, et al., Dev. Dyn., 249, 88‒111 (2020)10) D. Li, et al., Nat. Med., 25, 1116‒1122 (2019)11) T.E. North, et al., Nature, 447, 1007‒1011 (2007)12) E.J. Hagedorn, et al., Exp. Cell Res., 329, 220‒226 (2014)13) S.C. Baraban, et al., Nat. Commun., 4, 2410 (2013)14) H-C. Lee, et al., Pharmaceuticals, 14, 500 (2021)15) C.A. MacRae., et al., Nat. Rev. Drug Discov., 14, 721‒731 (2015)16) 田中利男, 実験医学, 40, 36‒43 (2022)17) D.C. Swinney, et al., Nat. Rev. Drug Discov., 10, 507‒519 (2011)18) H. Ledford, Nature, 530, 391 (2016)19) B. Zhang, et al., Plos One, 9, e85439 (2014)20) B. Zhang, et al., Transl. Res., 170, 89‒98 (2016)田中利男(たなか としお)1980年 三重大学大学院医学研究科博士課程修了同 年 三重大学医学部助手(薬理学)1982年 三重大学医学部講師(薬理学)1982年 米国ベイラー医科大学(細胞生物学教室)留学1988年 三重大学医学部教授(薬理学)2003年 三重大学生命科学研究支援センター併任教授2005年 三重大学大学院医学系研究科教授(薬理ゲノミクス)2009年 三重大学メディカルゼブラフィッシュ研究センター長2016年 三重大学大学院医学系研究科システムズ薬理学教授2020年 現在に至るCopyright © 2023 The Pharmaceutical Society of Japan
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