MEDCHEM NEWS Vol.33 No.2
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〔SUMMARY〕1.ゼブラフィッシュ創薬の進展2. わが国におけるゼブラフィッシュ・メダカKeyword Zebrafish, Drug Discovery, In Vivo Phenotype Screening, Phenome, Precision Medicine*1 三重大学 大学院医学系研究科 システムズ薬理学 特定教授 田中利男Toshio Tanaka*1Global Development of Zebrafish Based Drug DiscoveryMEDCHEM NEWS 33(2)85-89(2023)85 ゼブラフィッシュによる医学研究論文は、PubMedにおいて、2020年は4,421報、2021年にはさらに論文が増加し4,497報となった。一方、1993年までは100報以下、2003年までは1,000報以下で、主に発生生物学論文が主要なものであった。その後、急激にゼブラフィッシュ医学論文数は増加し、これらの研究成果は、ゼブラフィッシュ創薬の重要な基盤情報となっている(図1)。また、他の医学研究モデル動物に比べ、その進展は最も遅く開始されたが、その後の医学論文数が増加し続けている数少ないモデル動物となる(図1)。 現在までの創薬は、ハイスループットスクリーニングが可能なiPS細胞やES細胞などのヒト細胞や、ロースループットながら深いin vivoメカニズム解析に活用してきた哺乳類モデルが2大モデル生物であった。そこで、ゼブラフィッシュは、in vivoハイスループットスクリーニングが実現する唯一の脊椎動物モデルであり、創薬モデル生物の第三極を形成し、動物愛護との調和性、スループットやコストなどにおいてまったく新しい創薬パラダイムを実現することになった。すなわち、動物愛護、スループット、コスト問題から、ラットは2012年以降漸減し、これまでモデル動物の王者であっ ゼブラフィッシュ創薬は、2000年ごろから世界で同時に発展し、2014年にはZebrafish Disease Model Society(ZDMS)、2015年にはゼブラフィッシュ創薬研究会が組織され、ゼブラフィッシュ医学論文が継続的に増加している数少ないモデル動物である。さらに、世界では17社のゼブラフィッシュ創薬支援CROが設立され、フェノタイプスクリーニングにより、すでに多数の医薬品臨床開発へ進展している成功例が報告されている。これらは、1)新規化合物による新しい適応症開発、2)既存分子標的薬の新しい適応症開発などが実現している。さらに患者がん移植ゼブラフィッシュモデルは、次世代個別化医療への発展が期待されている。The use of zebrafish in drug discovery has grown exponentially during the last 20 years and many successful zebrafish based drug discoveries have been reported.たマウスも2021年のピークから2022年には15%減となった。一方、いわゆるゲノム創薬戦略は、初期にターゲット分子バリデーションを確立することになるが、最終的な臨床試験において有効性の欠乏が理由で開発が中止になることが最大の問題とされている1,2)。すなわち現状では分子還元主義の課題を克服するには至っていないため、分子レベルや細胞レベルではなく生体レベル(in vivo)でのターゲットバリデーションが不可欠となり、in vivoスクリーニングが必須の創薬プロセスとなる。その結果、ショウジョウバエや線虫、ゼブラフィッシュが、in vivoハイスループットスクリーニングが可能なモデル動物としての有用性が認められた。さらに臓器別医学に対応するためには、脊椎動物モデルであるゼブラフィッシュが、唯一の選択となった(図1)。 ゼブラフィッシュの創薬モデル動物としての特徴について簡潔に述べる。脊椎動物であるゼブラフィッシュは、ヒト疾患ゲノムとの相同性が約80%である。ゼブラフィッシュ胚は、受精後1日で心拍動が認められるなど、臓器形成が著しく早く、また交配時には1組1回で約200個の受精卵を得ることができる。そして、受精卵や体長3mmの稚魚は透明で、精密なフェノタイプ定量解析を可能にし、96ウエルプレートを用いれば、1mgProfessor, Department of Systems Pharmacology, Mie University Graduate School of Medicine創薬研究会の発展ゼブラフィッシュ創薬のグローバル展開

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