MEDCHEM NEWS Vol.33 No.2
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図4  MAUraの高いTyr/His修飾特性と、光触媒の一電子酸化能/1O2産生能による残基選択性制御 右図は左からRu(bpy)3錯体、ATTO465、BODIPY。82め、Tyr修飾反応が優先的に進行すると考えられる。一方で、BODIPYによる1O2産生能は高くないものの、MAUraとの一電子移動反応が起きづらいため、1O2により酸化されたHisが効率的にアニオン型のMAUraによる捕捉を受け、結果としてHis修飾反応の効率が高くなったと考察している。 BODIPYはケミカルバイオロジー研究において、蛍光プローブとして汎用されている色素分子であるが、本研究によって、ヒスチジン残基修飾反応の触媒として、BODIPYの分子機能の新しい側面を発見することができた。BODIPYの近接環境でのタンパク質修飾については、抗体のFc領域結合ペプチドとBODIPYの連結分子によるFc領域選択的な抗体修飾15)やHaloTag融合ヒストンタンパク質上に導入したBODIPYを触媒として、核内のタンパク質を選択的に修飾することにも成功してる16)。5. おわりに 本稿では、筆者らが開発した高反応性化学種を活用したTyr/Hisの修飾法、および修飾反応の反応場制御について紹介した。これらはいずれも触媒的酸化反応による短寿命の高反応性化学種であるラジカル種および1O2の産生に立脚した独自のタンパク質修飾法である。また、これらの反応は短寿命の高反応性化学種が拡散し得る触媒近傍のナノメートル空間で制御可能であることを実証した。これらの反応は近年注目されている近接標識技術であり、標的タンパク質の同定やタンパク質間相互作用解析への応用にも成功している。今後、これらの反4. チロシン/ヒスチジン残基修飾の制御 以上より、修飾剤としてMAUraを使うことで、一電子酸化反応が起きるような反応条件ではTyrが修飾され、1O2が産生される条件ではHisが修飾されうる。一電子移動反応の触媒能と1O2の産生能は必ずしも比例せず、それぞれの残基修飾に適切な触媒構造に関しては改善の余地が大きい。そこで、どのような触媒構造がTyr/His修飾に適しているのかをスクリーニング的に評価することとした。TyrとHisを一箇所ずつ有しているタンパク質として、ユビキチンに着目した。ユビキチンのTyr59とHis68は適度にタンパク質表面に露出しており、トリプシン消化後の質量分析においてもMAUraが付加したペプチド断片は感度よく検出されるため、適切なTyr/His修飾の選択性評価系になると考えた。 約20種類の光触媒候補分子を検討するため、ユビキチン、MAUra、各光触媒候補分子の存在下、それぞれに適切な波長の光を照射することで修飾反応を誘導した。修飾されたユビキチンをトリプシン消化し、nanoLC- MS/MSによって、候補分子間のTyr/His修飾の触媒能を比較した。Ru(bpy)3錯体はTyr修飾とHis修飾の両方を触媒する分子であったが、Tyr修飾選択的な触媒として前述のATTO465が、His修飾選択的な修飾剤としてBODIPYが効率的に機能することを明らかにした(図4)。 ATTO465では、1O2産生も触媒するが、MAUra存在下では、一電子移動反応によるMAUraのラジカル化が効率的に起きるために、色素分子の励起状態がクエンチされつつ、His修飾反応の経路は抑制される。そのた

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