bac図1 ラジカル反応によるチロシン残基修飾 80(a)Ru(bpy)3錯体の構造。(b)一電子移動反応によりラジカル化されるチロシン残基修飾剤。 (c)高反応性のラジカル種による触媒近接環境で制御可能な選択的タンパク質修飾。種々検討した。光刺激は生体直交性の高い外部刺激であり、触媒候補の中でも、光照射で一電子移動反応を駆動できる光触媒を研究対象として、Tyr修飾反応を検討することとした。 一電子移動反応は生理的な反応条件下では1.4nm以内の制限された空間で進行するとされている4)。また、一電子移動反応の結果生じるラジカル種は高反応の化学種であり、生理条件下においてミリ秒スケール以下の短寿命性が予想されたため5)、触媒分子周辺数ナノメートルの近接環境で選択的なタンパク質修飾反応が制御できると考えた。ペプチドを基質とした初期検討の結果、多彩な研究分野で一電子移動反応を触媒することが知られるRu(bpy)3錯体が、可視光照射条件において、効率的な一電子酸化反応を触媒し、フェニレンジアミン誘導体とTyrとの間の酸化的な共有結合形成反応を起こすことを見出した6)。その後の検討により、フェニレンジアミン型の修飾剤は長い半減期をもつため、触媒周辺の比較的広い範囲を標識することがわかった7)。 次に、触媒の近接環境の狭い範囲で選択的に機能する修飾剤を見出すべく、Ru錯体とTyrを連結した分子を作製し、それを基質としたスクリーニングにより、1-mehyl-4-arylurazole(MAUra:「モーラ」と呼ぶ。網羅的な近接標識に応用したいという願いを込めて)を見出した8)。MAUraはフェニレンジアミン誘導体よりも反応性の高いラジカル種に変換され、一電子酸化を触媒する分子の周辺数ナノメートルで選択的に修飾剤として機能することを明らかにした(図1)。 また、使用可能な触媒はRu(bpy)3錯体に限定されず、過酸化水素により活性化される西洋わさびペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase:HRP)とフェニレンジアミン型の修飾剤を用いたTyr修飾は、免疫染色のシグナル増幅反応に使用可能であった7)。MAUraや、その類縁体は電極上で、電気化学にも活性化することが可能であり、従来法と比べて高い選択性と高い効率でタンパク質上のTyrを修飾することができる9,10)。他の 光触媒としては、ATTO465(Acriflavine誘導体)がRu(bpy)3錯体よりも高い効率でMAUraによるTyr修飾を触媒した。この触媒は細胞膜透過性にも優れており、核内のヒストンタンパク質上に局在させた触媒の近接空間で反応を制御することにも成功している11)。
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