A mRNAの構造B mRNAの酵素合成3′C mRNAの化学合成3′5′AAAAAAOOONNOONONNOOOONNOOOOONNOOOOOOOH2NOPOOOOPONN3′-UTR5′-UTRH2NH2NOPOOOPONNNNOPOOPONaNNH2NOPOOOPONN精密合成精製化学修飾RNA鎖5′3′化学的キャップ化法5′キャップ構造OHOH鋳型DNA核酸合成機図1 mRNAの構造と合成法OPOOPHOCH3OHOOPOONaONaCH3ARCARNAポリメラーゼNHNH2OHOHCDSCH3OHOOPOCH3キャップ化mRNAキャップ化mRNA(化学修飾体)OHOHCH3AAOPO=化学修飾 76mRNA医薬において必要不可欠な構造である3)。しかし、キャップ構造の特徴的な構造ゆえに、mRNAを製造する工程には、酵素合成法が必要となる4)。 mRNAの合成は、標的タンパク質をコードする鋳型DNAからRNAポリメラーゼによる転写反応により調製される(図1B)。この際、キャップ構造を模倣したキャップアナログ(ARCA)を加えておくことで、ある一定の割合でキャップ構造が導入されたmRNAが調製できる5)。このように、キャップ構造の導入は酵素合成法により達成される一方、酵素の高い基質特異性から化学修飾されたヌクレオシドを導入することが困難であった。これに対し筆者らは、酵素合成法を必要としない完全化学合成法によるmRNAの調製が、化学修飾の自在導入を可能にすると考えた(図1C)。RNAの化学合成法では、核酸合成機により一塩基レベルであらゆる化学修飾を精密に導入することが可能であり、mRNAへの応用が期待される。しかし、mRNAを完全化学合成で調製した報告例はなく、未踏の取り組みであった。完全化学合成法の鍵となるのは、キャップ構造の導入法である。そこで筆者らは、RNAに対する化学的キャップ化法の開発に取り組んだ。3. 完全化学合成の実現 化学的キャップ化法の開発において、難関となるのはm7Gの不安定性である。m7Gは、酸性条件では、脱塩基反応が進行する一方、塩基性条件では、塩基部8位に水が求核付加する開環反応が進行する6)。そこで、これら化学反応性を考慮し、以下のような手法を考案した (図2)。はじめに核酸合成機によるホスホロアミダイト法により、5′末端がモノリン酸化されたRNA鎖を合成する。このRNA鎖に対し、m7Gのジリン酸化イミダゾリド体(キャップ化試薬)を反応させる。ここでは、キャップ化試薬の加水分解を防ぐため、ジメチルスルホキシド(DMSO)を用いる戦略をとった。有機溶媒に対するRNA鎖の溶解性を鑑み、RNA鎖の対イオンをトリエチルアンモニウムに変更した。さらに、活性化剤である塩化カルシウム(CaCl2)と1-メチルイミダゾールを添加した。その結果、キャップ化反応は55℃、3時間で95%以上の収率で進行することが確認された。本研究であげた成果は、mRNAを完全化学合成した世界初の例となった7)。
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