MEDCHEM NEWS Vol.33 No.2
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71Figure 1  UPSを利用したPROTACの標的タンパク質分解もっていないことから、最適なリガンドが存在しないものがほとんどであり、低分子のみで転写因子に対するPROTACをデザインすることは困難である。 現在、ヒトでは約1,600種類の転写因子が報告されており、そのうちおよそ96%のDNA結合領域の配列が明らかにされ、データベース化されている3)。そこで筆者らは、転写因子に結合するDNA配列をベースとしたデコイ核酸を標的リガンドとして利用することで、転写因子を標的とした汎用性のある新規PROTACを開発できるのではないかと考えた。本稿では、エストロゲン受容体α(Estrogen Receptor α:ERα)を転写因子のモデルとした、デコイ核酸型PROTACの開発について紹介する4)。2. デコイ核酸型PROTACの設計 ERαのリガンドには、ERαタンパク質とエストロゲン応答配列(ERαが結合するDNA配列)の共結晶X線構造を基に5)、21塩基のデコイ核酸を設計し、アルキン修飾したDNA(ER(dec))を合成した。また、E3リ ガーゼリガンドには、汎用されている3種類のリガンド(LCL161、VH032、Pomalidomide)を選択し、それぞれに末端をアジド化したPEG3リンカーを導入した分子を設計した。これらを、銅触媒を用いたクリック反応 で連結し、目的とするPROTACを3種類(LCL-ER (dec)、VH-ER(dec)、POM-ER(dec))設計・合成した(Figure 2)。3. デコイ核酸型PROTACの活性評価 合成したPROTACのERα結合活性を競合的な蛍光偏光法を用いて評価した。ER(dec)の末端にFAM(Fluorescein)で蛍光標識化したFAM-ER(dec)を プローブとし、各PROTACを競合させ、半数阻害濃 度(IC50)を算出することで結合活性を評価した。その結果、ER(dec)は、IC50=39.4nMでERαに結合し、LCL-ER(dec)IC50=31.2nM、VH-ER(dec)IC50=43.7nM、POM-ER(dec)IC50=52.6nMと、いずれもER(dec)と同等のERα結合活性を示したことから、デコイ核酸のPROTAC化(E3リガーゼリガンドとの連結)は、ERα結合活性に対し顕著な影響を与えないことが示唆された。 各PROTACのERα分解活性は、乳がん細胞株MCF-7細胞を用いたウェスタンブロッティングで評価した。PROTACをLipofectamine RNAiMAXにより細胞にトランスフェクション後、24時間培養し、ERαタンパク質の発現量を定量解析した。その結果、3種類のPROTACはいずれもERα分解活性を示し、中でも

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