62むことはできず、国債の発行を背景とした一般会計からの繰り入れの増加に慢性的に依存せざるを得ない状況となっています。同時に、規模的には医療費の2割程度 にあたる薬剤費への財政圧力を強めることで財政的なギャップを埋める動きは継続しており、具体的には2021年度からは2年に1度の薬価改定に加え、いわゆる「裏年」にも市場実勢価改定が行われることとなりました。これは結果として製薬企業の革新的医薬品・イノベーションの研究開発のための原資を圧迫し、開発の国際競争力を低下させる一因となっています。 2021年における世界の医薬品市場は1兆4235億円に達し、過去5年で平均5.1%拡大している一方で、日本は現にマイナス0.5%と主要各国で唯一のマイナス成長となっており、日本市場の低成長は向こう5年間以上続くものと考えられています8)。国民皆保険によるセーフティネットの維持とイノベーションの促進をどのように両立させていくのか、サービスと負担のバランスをどう考えるのか、医療費、薬剤費のより効率的な配分はどうあるべきか、今こそ国民的な議論が必要とされています。 日本が世界に誇る国民皆保険制度は将来にわたり安定的に維持されるべきであり、また同時に、革新的な医薬品へのアクセスは制度的にしっかりと保証されるべきです。残念ながら、近年の薬価制度の頻回な変更によっ て、結果としてグローバル市場における日本市場の信頼は低下しつつあります。現在の日本の制度の長所である、新薬が薬事承認後に速やかに薬価収載、保険償還される仕組みを堅持しつつ、財政面と市場の魅力を両立するための持続可能な仕組みが構築されなければなりません。・ 革新的な医薬品の価値を適切に評価するという観点から、海外での上市や価格収載を待たずに企業が日本で先行上市するインセンティブを提供すべきです。またそのために、先駆的医薬品指定制度を拡充し、制度がより利用されやすいようにすることが必要です。また、一定期間インセンティブを付与した薬価は、その期間が終了した後に集積されたデータを参考にしつつルールに基づき見直す等、価格の長期的な予見性に配慮した仕組みとすべきです。・ 革新的な医薬品は画一的なプロセスで評価できるとは限りません。細胞医療や遺伝子治療等の新たなモダリティ、また社会的意義の高い希少疾患の治療のための医薬品等、薬剤の価値および位置づけは多様化していることから、それらに対応することができる柔軟性のある評価の仕組みとしていくことが必要です。2-3. ヘルスリテラシーの向上への貢献 急速に変化しつつある環境の中ではまた、製薬企業への期待も多様化しつつあります。例えば、製薬企業が行う情報提供活動は、自社医薬品の効能効果や安全性等が医療従事者に認知され、これが適正使用の推進に資することを期待して実施されています。その一方で患者さん視点からは、医薬品によって生活がどのように改善し生きがいにつながるのか、また患者さんの感情に配慮しQOLの改善につながるような情報提供が必要とされている現状があります。 そもそも医療の質を考えるうえで、医療を受ける側の健康、医療に対する関心やリテラシーは極めて重要な要素です。自身の価値観に基づき、医薬品およびワクチンの選択を含めた自身の健康の在り方に積極的に関与していくためには、まずはその重要性が理解され、また意思決定に資する情報を主体的に収集し、咀嚼することができる能力が必要とされており、こうしたヘルスリテラシーの向上への取り組みに貢献していきます。2-4. アクセスを阻害しない費用対効果評価の制度設計 費用対効果によって評価を行う医療技術評価(HTA)を薬価収載後の調整プロセスとして活用することについては、わが国では2019年に制度化されましたが、科学的な観点からも制度運用的な観点からも、いくつかの課題に直面しています。 費用対効果評価制度を巡っては、中医協が2012年 7月に「制度の基本的考え方」として、費用対効果評価の対象技術と結果活用の原則を確認しています。対象技術の原則では、「全ての医療技術(全個別技術)を費用対効果評価の対象とするわけではない」等としたうえで、同評価の対象とする条件の一つとして「希少な疾患を対象としていない」こと等をあげています。さらに、結果・ 頻回な薬価制度変更を避け、制度設計から施行までの猶予を作ることで、市場の長期的な予見性を高める必要があります。また、国際的な医薬品市場動向に照らして適切な水準の成長を許容し、海外から見ても日本がイノベーションを評価する成長市場であるというメッセージとなるような制度設計とすべきです。・ 原則として、特許期間中の医薬品の薬価は維持されるべきです。あわせて、長期収載品やジェネリック医薬品の保険償還と薬価のあり方についても幅広に検討されるべきです。
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