MEDCHEM NEWS Vol.33 No.2
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2. 医薬品産業のエコシステムの確立に向けた2-2. 国民皆保険の持続可能性と医薬品分野における イノベーションの推進の両立612-1.研究開発・薬事規制環境の改善 日本の医薬品およびワクチンの開発環境は2000年代後半に大きな問題となったドラッグラグの状況から、過去10数年ほどの間に政府および企業等によるさまざまな取り組みを通じて、欧米との間の承認時期の遅滞は大幅に改善されてきました。その一方で、治験環境や薬事規制環境の課題は引き続き残されており、これに加えてイノベーションを阻害しかねない薬価制度の度重なる変更も相まって、再びドラッグラグが拡大する懸念が発生しつつあります。わが国が、革新的な医薬品およびワクチンの開発において国際的にも魅力的で競争力の高い国であり続け、その結果としてすべての国民が最新のイノベーションの成果を享受し続けることができる環境を実現すべく、以下の取り組みを継続的に行っていきます。・ 定期的な治験環境調査を実施し、臨床研究中核病院の 国内外の環境が大きく変化し、パンデミックや戦争といった危機に直面する中で、新たな社会的課題の解決に向け、医薬品産業のエコシステムを確立するため、製薬団体として今後どのように貢献できるのかが問われています。 EFPIAでは、9つの委員会および部会(薬価・経済委員会、技術委員会、アクセス委員会、ガバナンス・法務委員会、広報委員会、患者支援委員会、渉外・政策提言委員会、ワクチン部会および血液製剤部会)の活動を通じ、医薬品産業に関連する諸課題について、政府等と協力し、政策提言および啓発を行ってきました。とりわけ、持続的な医薬品開発および生産、供給を支える制度の維持、改善に力を入れて取り組んでおり、超高齢化社会の中で国民皆保険制度を維持するための医療制度改革、デジタルや地域連携を取り込んだ新しい医療モデル、革新的な医薬品およびワクチンの早期導入等については、政府やアカデミア、患者団体をはじめとするステークホルダーとの積極的な対話に努めてきています。結果的に製薬産業として、医療関係者と提携して革新的な医薬品開発を行い、それを安定的に届けることにより、日本における健康長寿社会の実現に寄与してきたことに加え、病気やけがからの早期の社会復帰を通じた生産性の向上等から経済面でも貢献できてきたものと考えています。ネットワーク化への働きかけ、リスクベースド・アプローチ、分散化治験等の新たな取り組みを推進します。また、治験オペレーションの効率化のためのCentral IRBおよび治験関連文書の電子化の推進、治験費用の適正化、治験症例集積を目的とした治験施設のセンター化等の取り組みについて、政府その他のステークホルダーと連携して進めていきます。・ 日本においてニーズの高い医薬品およびワクチンの審査制度として、優先審査制度、先駆的医薬品指定制度、特例承認制度、緊急承認制度等がありますが、指定の基準が厳しく、指定件数は諸外国に比べて非常に少ないことが課題であるとされています。これらの制度がその趣旨に沿った形で活用されるよう、制度改善への議論に積極的に参加し貢献していきます。・ 近年米国では、ニーズの高い新規抗がん剤の承認審 査において、臨床試験の主要な成績に基づき新薬承 認の審査を通常よりも早期に開始する、Real-Time Oncology Review(RTOR)という新薬を少しでも早く患者さんのもとに届ける枠組みが導入されました。日本のがん患者さんも同様の恩恵を受けることができるよう、他の製薬団体とともに、これに類似する仕組みの導入を提案してきています。・ 製薬企業から規制当局に提出する薬事資料等の英語での受入れ拡大を提案していきます。これにより治験および承認申請が迅速化し、結果として最新の医薬品およびワクチンを欧米から遅滞なくお届けすることができます。また、再生医療等の革新性の高い医薬品開発領域では、アカデミアの果たす役割がとりわけ重要であることを踏まえ、政府によるアカデミアに対する支援の充実、また規制要件や開発ガイドラインの検討段階から産官学で連携して議論する場を設けること等を提案していきます。・ 品質関連および再生医療等の領域特異的にみられる国内独自の規制要件の撤廃を含む改善、また市販後の安全対策の国際調和の推進について、他の製薬団体と連携して取り組みます。 社会保障関係費は国の一般会計歳出の約3分の1を占める最大の支出項目であり、高齢化の進展に伴い、介護、医療の給付は一層増加しています。その一方で、現役世代の減少と経済成長の停滞から保険料収入の増加を見込戦略的な取り組み

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