MEDCHEM NEWS Vol.33 No.1
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3. トリプトファン選択的反応35型アジド-アルキン環化付加(SPAAC)反応によって蛍光分子を連結させることで、Quenchbodyを簡便に調製でき、望ましい機能をもつ蛍光分子のスクリーニングが容易になった。 Tyr自体のレドックス活性を利用する手法として、 歪み駆動型酸化制御キノン-アルキン環化付加反応(SPOCQ)を用いた抗体修飾法が、2017年にDelftらにより報告された(図1c)4)。本手法は、Tyr選択的な酸化酵素(マッシュルームチロシナーゼ、mTyr)を用いた酸化により側鎖を1,2-キノン構造へと変換し、歪みアルキンを環化付加させる。しかしながらmTyrはタンパク質内部のTyrを酸化することができないため、完全に表面露出したTyrをタンパク質に別途導入する必要がある。そのためDelftらは、トラスツズマブの2つの軽鎖C末端に露出Tyrを導入し、本修飾法を適用した。これによって、抗インフルエンザ薬(AT1002)やチューブリン結合分子(モノメチルアウリスタチンF、MMAF)を位置選択的に導入し、ADCを製造できることを示した。このADCの薬物活性については評価されていないが、抗原認識部位と異なる位置が修飾されているため、抗原結合能が損なわれていないものと想定で きる。 2021年、生長と金井らは、オキシムを用いたTyr選択的タンパク質修飾法とその抗体への適用を報告した(図1d)5)。本修飾法では、オキシムから系中生成させたイミノキシルラジカルがTyrと酸化的な結合形成を行う。置換基R1、R2のかさ高さによって、修飾体の安定性を調節することが可能である。すなわち、R1、R2のうち片方がtert-ブチル基相当でもう一方がiso-プロピル相当のオキシム付加体は安定であるが、両方がtert-ブチル基相当のかさ高さを備えるオキシムを用いると、可逆的な修飾反応が可能となった。後者のイミノキシルラジカルを用いて抗体修飾を行うことで、抗原認識部位に比較的多く存在するTyrへの修飾基の着脱が可能となり、抗原認識能のオンデマンド制御が可能になる。実際に、本修飾法をトラスツズマブ抗体に適用することで、修飾後は親抗体(EC50=0.37nM)よりも認識能が有意に低下(EC50=2.8nM)し、修飾体にぺニシラミンで還元的な処理をほどこすと脱修飾が起こり、親抗体と同程度まで親和性が復元(EC50=0.63nM)されることを見出した。このユニークな特性から、局所酸化還元条件下において活性化されるプロドラッグ抗体への応用が期待される。 Trpはインドール環を側鎖に有する疎水性アミノ酸残基であり、一次配列含有率とタンパク質表面への露出度は20種の天然アミノ酸中で最も小さい。この特性は修飾数や修飾位置の制御にとって利点が大きい。Trp選択的修飾反応は種々報告されているが、抗体修飾とその応用例を示した報告は限られている。 生長と金井らは、安定有機ラジカルである9-アザビシクロ[3.3.1]-ノナン N-オキシル(ABNO)を用いたTrp選択的反応を報告した6)。本修飾法では、ABNOを窒素酸化物(NOx)により一電子酸化して活性種であるオキソアンモニウム種を系中生成させ、これがインドール環の3位と結合を形成する(図2)。本手法は抗体にも適用可能であり、その応用として、がん細胞ターゲティング能を有する分子(葉酸、FA)を抗体に結合させた。葉酸修飾抗体をがん細胞へと選択的に集積させ、抗体Fc領域を認識するナチュラルキラー細胞を選択的にリクルートすることで、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を引き起こせることも実証した7)。抗体上でTrpの露出位置は限られているため、ADCCに関与する抗体Fc領域の機能を損なうことなく、葉酸分子修飾が可能になったことが成功の鍵である。 本Trp修飾法を用いて、抗体への小サイズ金ナノクラスター(Au25)修飾を達成した8)。金ナノ粒子は生体毒性が低く、電子線を強く回折するために、生体分子や生体組織を電子顕微鏡で観察する際のプローブ試薬として古くから活用されてきた。さらに金ナノ粒子は、サイズ面や構造面でも多様かつ均質な形状のものを簡単に調製することが可能である。近年のクライオ電子顕微鏡の発展を鑑み、サイズの規定された金ナノ粒子を精密な位置関係で結合させた抗体は、その認識対象となる生体分子の高分解能かつ定量的観察に有益なプローブ試薬になると期待される。 構造明確かつ均質なAu25ナノクラスターを抗体へ修飾するにあたり、従来条件を改良し、ヒドロキシルアミン体であるABNOHをTEMPO+BF4-にて活性化することで、中性バッファー条件下でTrp選択的反応を進行させる新たな条件を見出した。本法によってアジド基をトラスツズマブ抗体に導入し、続いてSPAAC反応を適用することで、Au25クラスターを抗体へ導入する手法を確立した。Au25修飾トラスツズマブの抗原認識能は、未修飾体に比べ微小な減少に止まることが、ELISA

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