313D EDで得られた構造から計算したもの(scf:■)、1Hの位置のみ最適化したもの(relax:●)、1Hの位置と格子定数を最適化したもの(relax-Vc:▲)を示す。図2 計算および実測の(a)13C、(b)1H化学シフトの比較 図3 計算および実測化学シフトのRMSD0.3~0.5ppm程度になることが示されており、やはり満足できる構造ではないことがわかる。このように3D電子回折のみでの構造の精密化には限界があることがわかる。 では、3D電子回折で得られる構造は不十分なのだろうか?実はそんなことはなく、水素原子以外の位置は3D電子回折で精密に決定できる。そこで、格子定数を固定したまま、水素原子位置のみ最適化を行った。図2にrelaxとして結果を示す。大変面白いことに、最適化を行ったのは水素の原子位置のみであるにも関わらず1H、13Cともに結果が大幅に改善していることがわかる。実際に、RMSDは1Hが0.74ppm、13Cが2.79ppmとなり大幅な改善が見られた(図3)。さらに結晶格子も最参考文献 1) Gruene, T., et al., Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 57, 16313‒16317 (2018) 2) Jones, C.G., et al., ACS Cent. Sci., 4, 1587‒1592 (2018)適化のパラメーターに入れて最適化した(図2のrelax- Vc)。13CのRMSDは3.73ppmと悪化したが、より構造に敏感な1HのRMSDは0.49ppmとなり定量的に満足のいく結果といえる。また、図1の表に示すように格子定数の値もNeutron Diffractionで報告されている値により近くなっていることがわかる。もっとも、第一原理計算は0Kで行っているため、計算で得られる格子定数が本当に信頼できるものかどうかは、議論の余地がある。そのため可能であれば、粉末X線などの手法も併用して確認することが望ましい。4. 最後に ここでは、3D電子回折で得られる構造の妥当性の議論を行った。十分な質の回折データが得られる場合には、3D電子回折のみから非水素原子の位置は精密に決定できることが示された。一方で、水素原子の位置は精密な決定ができておらず、第一原理計算による構造の最適化および固体NMRによる構造の妥当性の評価が必要である。3D電子回折は非常に強力な手法であるが、水素原子の位置に関しては十分注意して取り扱う必要が ある。
元のページ ../index.html#31