3. 3D電子回折で得られた構造の第一原理計算303D EDのa,b,cは、実測値と第一原理計算による最適化を行った値(カッコ内)を併記した。図1 3D electron diffractionで得られたorthorhombic L-histidineの構造と結晶学データ らしさを検証することができる。さらに精密な測定が必要な場合には、固体NMRによる原子核間の距離の測定を行うことも可能である。水素結合の強度の議論や塩・共結晶などの区別では、固体NMRによる原子核間距離測定を併用することが有効である9)。 ここまで議論してきたように3D電子回折で得られる構造は、そのままうのみにするのではなく、注意深い検証および最適化を行うことが重要である。幸い、結晶構造の第一原理計算による最適化は容易に行うことが可能であり、またその構造の検証は固体NMRで得られる化学シフトの計算値と実測値を比較することで行うことができる。ここでは、実例を見ながら最適化の効果がどのように現れるのかを議論する。 サンプルにはL-histidineを用いた。L-histidineにはmonoclinicとorthorhombicの2つの安定結晶形があるが、ここではorthorhombic結晶を用いている。構造解析および精密化はOlex2のインターフェースのもとでSHELXTおよびSHELXLを用いて行った。得られたcompletenessは89.1%、R1は10.4%であった(図1)。構造の最適化および化学シフトの計算には、quantum espressoを用いた10)。まず、3D電子回折で得られたcifファイルをquantum espressoで用いられる入力ファイルに変換する必要がある。これにはcif2cellを用いた(https://sourceforge.net/projects/cif2cell/)。13C固体NMR化学シフトは13C CPMASで実測し、1H固体NMR化学シフトは高速の試料回転(70kHz)で測定された2D 1H DQ/1H SQ相関スペクトルから得た。いずれも(サンプルにより異なるが)1mg程度の試料から数分~数時間程度の測定時間で、十分な質のスペクトルが得られる。 まず、3D電子回折で得られた構造を最適化することなく、そのままNMR化学シフトを計算して比較した。横軸に実測シフト、縦軸に計算シフトをプロットした結果を図2のSFCに示す。良い一致が見られる場合には、プロットは傾き1の直線上に乗ることになる。13C化学シフトは典型的には0~200ppmの広い範囲にわたって分布する。そのため一見、計算シフトは実測シフトをよく再現しているように見える(図2a)。しかしながらその差の絶対値を見てみると10ppm以上の違いがあるものがあり、3D電子回折のみでは正しく精密化された構造とはいえない。より定量的な指標として実測および計算化学シフトのRMSDを見ると8.74ppmとなっている(図3)。確からしい構造では、一般的に2~3ppm程度になることが多くのグループから報告されているため、やはり十分精密な構造ではないといえる。次に1H化学シフトに注目した。1H化学シフトは0~20ppm程度の比較的狭い範囲のみに分布するが、結晶構造に非常に敏感であることが報告されており、13Cよりもより信頼できるパラメーターとして用いることができる。図2bに示すように、13Cと同様に計算シフトが実測シフトをよく再現しているとは言い難い。図3に示されるようにRMSDは1.64ppmとなった。1Hの場合にはRMSDは による最適化と固体NMRによる評価
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