Unit leader, Nano-crystallography unit, Baton Zone Program, RIKEN*2 日本電子株式会社 シニアスペシャリスト 〔SUMMARY〕 微小な単結晶から結晶構造が得られる3D電子回折法の概略を解説し、その構造の妥当性を固体NMRで評価した。第一原理計算による構造最適化およびNMR化学シフトの計算、またその計算値と固体NMRによる実測値との比較から、非水素原子の位置は3D電子回折により精密に決定できることがわかった。一方で、水素原子の位置の精度は不十分であり、第一原理計算による最適化および固体NMRによる評価は必須であった。Brief introduction to three-dimensional (3D) electron diffraction (ED), which solves crystalline structures of micro- to nano-sized crystals, is given. Geometry optimization is conducted by the first-principle quantum computation which also provides NMR chemical shift values. By comparing the experimental and calculated solid-state NMR chemical shifts, it is shown that non-hydrogen atoms are accurately located by 3D ED, however, hydrogens are not. It is mandatory to use first-principle quantum computation to locate hydrogens accurately together with evaluation by solid-state NMR.28MEDCHEM NEWS 33(1)28-32(2023)Keyword 3D electron diffraction, solid-state NMR, first-principle quantum computation*1 理化学研究所 バトンゾーン研究推進プログラム ナノ結晶解析ユニット 西山裕介Yusuke Nishiyama*1,2ユニットリーダードの一つとして観測される。励磁電流を変化させることにより容易に焦点距離を変化できる電子レンズの特徴を生かし、実像を映す像面と回折パターンを映す後焦点面のどちらかを選択して容易に観測することができる。実際に、ボタン一つで実像と回折パターンを切り替えることができる。従来は晶体軸に平行に電子線を照射することにより構造解析に利用されてきたが、単結晶X線回折法と同様に系統的に電子線の入射方向を変化させながら多数の回折パターンを観測する手法が2007年に提案された3)。これらのパターンから3D逆格子空間を構築し、そこから実空間での結晶構造を再構築することができる。その後、低分子結晶からタンパク質に至るまで、さまざまな微結晶の構造解析が試されてきた。3D電子回折法は微結晶の構造解析手法として現在大きな注目を浴びており、その技術はレビュー論文などによくまとめられている4)。また、電子回折データの処理に特化したソフトウェアや装置の開発も進められている。ここでは、特に低分子有機結晶にターゲットを絞り電子回折で得られた構造の妥当性や、その精密化について議論する。2. 3D電子回折法と単結晶X線回折法の比較 電子回折とX線回折の最も大きな違いは、物質との相互作用の大きさにある。X線と比べると電子線は物質に対して104~105倍ほど強く相互作用するため、単結1.はじめに 単結晶X線回折法は、単結晶の構造解析の王道として幅広く用いられている。以前は、一辺100μm程度の大きな単結晶が必要とされており、構造解析に耐えうるサイズと質の単結晶を調製することが大きな障壁の一つだった。しかしながら、近年の装置の改良(検出器の高感度化、線源の改良)により、実験室レベルの装置であっても一辺1μm程度の単結晶の構造解析ができるようになった。とはいえ、残念ながらさらに小さい一辺1μmを切るような微結晶からの構造解析は依然として困難である。これは、X線と物質の間の相互作用が弱く微結晶からは十分な強度の回折強度が得られない(もしくは、十分な回折強度を得られるほどの強いX線を照射すると結晶が破壊されてしまう)ことが原因である。 この障壁を乗り越える手法として、近年、3次元(3D:three dimensional)電子回折法が注目を浴びている1,2)。電子回折法はX線の代わりに電子線を照射して、回折パターンを取得する手法である。歴史の初期では専用装置として開発されたが、現在では透過型電子顕微鏡(TEM:transmission electron microscope)の測定モーSenior specialist, JEOL Ltd.3D electron diffraction and solid-state NMR towards crystalline structure solution of small molecules3D電子回折と固体NMR:低分子微結晶の構造解析
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