/ILm05DCT7. まとめ26図5 COVID-19治療薬をめざしたYH-53の生物学的評価YH-53=3CLpro complex(7E18)YH-53[μM]10810710610510410310210110001510152025Anti-SARS-CoV-2 activity験や小核試験における遺伝毒性はなく、hERGチャネルに対しても阻害を示さなかった。また、CYP阻害活性において、YH-53(10μM)はCYP1A2、CYP2D6およびCYP2C8に対して若干の阻害活性があったが、CYP2C9とCYP3A4に対して阻害活性を示さないことがわかった。細胞毒性試験においてもYH-53はCC50>100μMであり、安全性の高い化合物である可能性が示唆された9)。 続いて、YH-53の薬物動態を調べるため、金沢大学の白坂善之准教授の協力の下、ラットにおけるADME試験を実施したところ、YH-53のバイオアベイラビリティーは3.6%であることがわかった。筆者らはこの原因についてさらに調べることにした。まず、YH-53はPAMPA試験、Caco-2細胞を用いた透過試験において、非常に良好な膜透過性を示すことが明らかになった。次に代謝安定性について検討を行ったところ、血漿中では安定であるものの、肝ミクロソームにおいて代謝を受けることがわかった。そこで、凍結肝細胞を用いてYH-53の代謝物試験を行ったところ、主に6つの代謝物が確認できた。筆者らは当初、インドール4位メトキシ基の脱メチル化体が主代謝物と考えていたが、予想に反してP2位LeuのC末端側で加水分解された化合物が主代謝物として同定された(図5)。すなわち、YH-53は肝細胞において何らかの加水分解酵素によってP1-P2間で加水分解され、血中濃度が低下していることが示唆された9)。 筆者らは基質認識配列を基に3CLpro阻害剤開発を行い、アリールケトン構造を有するジペプチド型阻害剤であるYH-53を見出した。YH-53の特許を取得していなかったことから、YH-53による医薬品開発は実現し得なかったが、筆者らがYH-53のSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性や薬物動態試験を実施している間に、製薬企業やアカデミアから続々と有望な3CLpro阻害剤が発表された。光栄にも筆者らの見出したベンゾチアゾールケトン構造を利用している研究グループも複数あり、少なからずこの世界的な災禍に光明をもたらす一端を担えたのではないかと自負している。今後、3CLpro阻害剤がCOVID-19に使用されるようになれば、抗ウイルス薬の歴史を鑑みても耐性ウイルスの出現は避けられないであろう。また、今回の経験を教訓に人類は新たなコロナウイルスが出現したときに備え、阻害剤研究を継続・促進し、3CLpro阻害剤のレパートリーを増やす必要がある。今後も、筆者らの研究がコロナウイルス感染症の治療薬開発に貢献するものと期待している。 最後に、本研究は林の前職である京都薬科大学、およ
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