6. YH-53を用いたSARS-CoV-2 3CLpro 25図4 ジペプチド型阻害剤の構造活性相関とYH-53の創製No.Ki(μM)No.Ki(μM)StructuresStructuresディの結果、4位にメトキシ基を導入するとインドールの窒素原子がGlu166残基主鎖のカルボニル基と強固な水素結合を形成するようになり、阻害活性向上に寄与していることが明らかになった。また、等温滴定カロリメトリー(ITC)を用いた結合における熱力学的パラメーターの測定を実施したところ、YH-53の3CLproに対する結合はエンタルピーに大きく依存しており、良好な医薬候補化合物群とされるエンタルピー駆動型の阻害剤であることが判明した。筆者らはこれらの結果を2013年に報告したが、SARS発生から10年が経過しており、研究費を得ることが大変だったことに加え、抗ウイルス活性を評価していただけるウイルス学者と出会えなかったことから、研究を一時中断した。 2020年1月、WHOによって新型コロナウイルス感染症のパンデミック宣言がされ、原因ウイルスはSARS-CoV-2と命名された。奇しくも当時のSARS-CoV 3CLpro阻害剤開発研究の中心人物であった筆者の1人である今野が、同年4月から助教として着任する予定であり、着任と同時に速やかに研究を再開することができた。まず、YH-53を再合成し、SARS-CoV-2 3CLpro阻害活性の評価をめざした。YH-53はすぐに再合成できたが、当時SARS-CoV-2に関連する遺伝子組換え実験は文部科学大臣の確認が必要であり、3CLproを自前で発現するまでにかなりの時間を要したことから、Bonn大学のChrista Muller教授のもとで先行して阻害活性を評価していただいた。その結果、SARS-CoV 3CLpro阻害活性と比較すると若干弱かったが、SARS-CoV-2 3CLproに対してもnMオーダーの強力な阻害活性を示すことが明らかになった(図5)9)。その後、筆者の研究室でもSARS-CoV-2 3CLproを発現して阻害活性試験を実施し、同様の阻害活性を示すことをダブルチェックできた。また、高エネルギー加速器研究機構の千田俊哉教授にYH-53とSARS-CoV-2 3CLproのX線共結晶構造解析を依頼したところ、高解像度の共結晶構造を取得することに成功した。共結晶構造から、YH-53のベンゾチアゾールケトン部位のカルボニル基は3CLpro活性中心のチオール基とヘミチオケタール構造を形成していることを確認することができた(図5)。また、YH-53の水素結合し得る官能基のほとんどすべてが3CLproとの水素結合ネットワーク形成に関与しており、ムダの少ない分子構造であることが明らかとなった9)。また、筆者らの化合物について抗SARS-CoV-2活性を群馬大学の神谷亘教授や筑波大学の川口敦史教授に評価していただいたところ、実施した化合物の中でYH-53が最も良好な抗ウイルス活性を発揮することがわかった(図5)9)。 YH-53に抗ウイルス活性があることを確認した筆者らは、次に医薬品開発にむけた可能性を検討すべく、in vitroにおける毒性評価を実施した。YH-53にAmes試阻害剤の開発
元のページ ../index.html#25