3. アリールケトン型3CLpro阻害剤の発見22図1 SARS-CoV-2の感染経路と3CLproによる前駆体タンパク質のプロセッシングあることが特徴としてあげられる。さらにその基質認識では、エンドペプチダーゼとしてグルタミン残基(Gln)のC端を特異的に認識するというユニークな基質特異性を有しており、ヒトでは同様の基質認識を示すプロテアーゼが存在しないことから、有力な創薬標的とされてきた。また、SARS-CoVとSARS-CoV-2の3CLproは96%の同一性があり、活性中心近傍においては100%の相同性を有することから2)、既存のSARS-CoV 3CLpro阻害剤が有効であることが示唆されていた。 筆者らはSARSが発生した2003年から、SARS-CoVの3CLpro阻害剤創製研究を開始した。一般的にセリンやシステインプロテアーゼ阻害剤の設計では、基質認識配列を基にした分子設計が展開され、さらに活性中心のシステインと可逆もしくは不可逆的な共有結合を形成する反応性官能基(warhead)が導入される。システインプロテアーゼの場合、切断部位のN端側3~4残基(P1-P4部位)を特に強く認識することが知られており、C端側は構造的に寛容である場合が多い。初期の阻害剤では、3CLproの認識配列でP1-P4に相当するAla-Val-Leu-Glnを利用することにした(図2)。システインプロテアーゼに対するwarheadとして、マイケルアクセプターであるα,β不飽和カルボニル構造が古くから利用されてきた。しかし、不可逆的反応を起こすα,β不飽和カルボニル構造は、オフターゲットに対する非選択的マイケル付加体形成により副作用の原因となる可能性がある。そこで、可逆的な共有結合を形成する電子吸引性ケトン に着目し、warheadにはCF3ケトン構造を採用した (図2)。WarheadとしてのCF3ケトン構造は1985年にAbelesらによって最初に報告され3)、フッ素原子により
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