MEDCHEM NEWS Vol.33 No.1
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7. Calibr研究所(California Institute for 6. エバーグリーンモデル 5. スクリプス研究所の近況について(Evergreen Biomedical Research Model)13力が新薬創出の競争に大いに影響することは間違いない。すなわち、創薬は、研究者能力依存型研究開発なのである。この能力に磨きを掛けるには、大学シーズと企業ニーズの両方を融合できる機会が大切であり、日本スクリプス会もその一助を担ってきたと自負している。 筆者(北村)は、2016年から2022年の春まで、スクリプス研究所に留学した。その間、筆者が見てきたスクリプス研究所の動向・近況について私見を交えて紹介 する。 2012年、研究所長を20年以上務めたRichard A. Lerner先生が所長職を退いたのち、2012年にMichael Marletta先生が後任として研究所長となったが、2014年にGenomics Novertis Foundation(GNF)の所長であったPeter G. Schultz先生が新たな研究所長となっている。Lerner先生がスクリプス研究所を世界一の研究所にまで引き上げた後、いかにして研究所をさらに発展させていくかというのは重要な問題であったであろうと思われる。Schultz先生が研究所長となってからは、特に、研究所全体としてバイオメディカル分野を重視して創薬を目指している趣がある。研究所全体として新たな運営モデルを現在進行形で模索・試験中と思われる。 スクリプス研究所は、非営利研究所であり、教育機関でもなければ医学系大学の付属研究所でもない。そのため財源確保が死活問題である。そこで恒常的な研究所の発展を目指し、現在の所長であるSchultz先生が提唱しているのが、エバーグリーンモデルである。具体的には、①投資・寄付・グラントをもとに基礎研究と創薬概念実証を行う、②これらの研究から生まれた創薬の知財を大手製薬企業に売却し、③得られた財源をスクリプスの運営および研究促進にあてる、というサイクルを回すなかで、研究所が恒常的に発展していくというものである。 Lerner先生が研究所長の時代に開発された技術・化合物をもとにして、数億~数十億米ドル(数千億円)規模の大型取引が複数個、スクリプス研究所と製薬企業の間で行われた。例としてはRichard Lerner(Humira)、Hugh Rosen(Ozanimod)、Jeff Kelly(Tafamidis)、Ben Cravatt(Vividion Therapeutics)等である。NIH(アメリカ国立衛生研究所)を中心とする外部資金が研究所収入源の大半であるが、これらの取引も現在のスクリプス研究所の運営費の重要な部分を支えている。このような成功例をビジネスモデルとして、より明示的にシステム化し研究所を運営しようとするのがエバーグリーンモデルである。エバーグリーンモデルに基づく研究所はほかになく、このようなエバーグリーンモデルそのものが仮説・実験であり、実際に成功するかは未知数である。製薬企業といかに棲み分けていくのか? 特にGenentech等、アカデミア寄りの製薬企業とどう違うか? どちらがより研究できるか? また、どちらが研究者にとって幸せか? 等々いろいろと疑問はあるが、現状を見る限りスクリプス研究所は、世界屈指の研究所であり続けるであろう。Biomedical Research) エバーグリーンモデルを実践するにあたって、創薬の技術・施設は必須である。スクリプス研究所において、トランスレーショナル創薬、特にスクリーニングと創薬化学を担う研究所がCalibr研究所である。Calibr研究所は、2012年にMerckによる出資(約42億円/最初の3年間)をもとに設立され、スクリプス研究所と独立した非営利のトランスレーショナルリサーチ機関であったが、どちらもSchultz先生が研究所長であったため、2016年に両者は合併し、スクリプス研究所の一部門となった。スクリプス研究所が基礎研究を行い、創薬応 用・トランスレーショナル研究はCalibr研究所が担当するというのは良いシステムで、うまく連携できれば相乗効果により医薬品開発の初期段階におけるコストと時間短縮が期待できる。 Calibr研究所は、小規模の製薬企業やバイオテクと同等の設備を備え、低分子スクリーニング・ライブラリ百万化合物程度、微量自動分注機(Echo Acoustic Liquid Handlers)2台、その他自動スクリーニングロボットAgilent Bravo、化合物ライブラリ保管倉庫等を備え、充実したスクリーニング施設をもっている。また世界最大のドラッグリポジショニング・ライブラリであるReFRAME(12,000化合物)を有しており、COVIDが始まった2019年末には、COVID関連のスクリーニングのため無償でライブラリを世界各地に配布した。低分子

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