4. 大学シーズと企業ニーズ3. 日本スクリプス会の経緯12写真1 第4回東西合同日本スクリプス会(東京)2016年12月3日ンディエゴで過ごした日々を思い出し、日頃のストレスから解放されるため、毎回盛会な研究会になっている。 日本スクリプス会がスタートしたのは1996年で、第1回スクリプス・バイオメディカルフォーラムを大阪大学の一室をお借りして開催した。発起人は、垣内喜代三先生(奈良先端大:Sharpless研)と近藤裕郷先生(医薬基盤研:Wong研)で、スクリプス研究所でできた研究者のつながりを、帰国後にさらに深め、特に産学連携で新しい創薬研究を推進したいとの熱い思いであった。2004年には、垣内喜代三先生(西日本側)と上野裕明先生(東日本側、田辺三菱:Nicolaou研)の幹事で、西日本と東日本との合同で、第1回シンポジウムを大阪で開催することができた。このとき、本会の名称を「日本スクリプス会:the Japan Scripps Society」とすることが承認された。2008年の第2回東西合同シンポジウムは、中田雅久先生(早稲田大:Nicolaou研)のお世話で大々的に開催され、スクリプス研究所からK. C. Nicolau先生(Rice大)、Kim D. Janda先生(Scripps研)、Erik J. Sorensen先生(Princeton大)をお招きし、盛大な国際シンポジウムになった。東西合同シンポジウムも回を重ね、2021年で第5回となったが、新型コロナウイルス感染拡大によりZoomでの開催を余儀なくされた。しかし、オンライン開催することで、現在、アメリカでご活躍の土釜恭直先生(Texas大:Janda研)、小出和則先生(Pittsburgh大:Nicolaou研)の2名の若手研究者の参加が可能となった。昨年の秋で、西日本側は第23回シンポジウム、東日本側は第20回シンポジウムの開催を迎えた。 日本スクリプス会のユニークなところは、前述したように、大学の研究者と企業の研究者がほぼ同数で会員を構成していることである。毎年のシンポジウムを世話する幹事も大学側と企業側から1名ずつ選ばれて、2名の幹事の裁量で講演者が決定される。したがって、講演も質疑・応答も、ほかの学会とは異なり、アカデミックと企業の両側の視点から行われ、大学人にとっては、企業ニーズを勉強する絶好の機会になっている。2010年頃から、多くの製薬企業がオープン・イノベーションを推進するようになり、また、DSANJ(Drug Seeds Alliance Network Japan)のようなマッチング・プログラムが開催されるようになったが、これに先駆け、日本スクリプス会は、90年代後半から、大学シーズと企業ニーズのかけ橋の役割を果たしてきた。 創薬は、典型的なサイエンス型研究開発である。これまでも、大学での基礎研究が新薬創出に大きく貢献してきている。しかしながら、大学での研究は、主に生体の仕組みや機能、タンパク質や天然物の性質等の基本的理解を深めるために行われているわけであり、創薬を一義的に狙ったものではない。そこで、大事なことは、基礎研究で明らかにされる多数の新規生体分子やその作用メカニズムといった科学的知見の中から、実際に創薬に結びつく分子やメカニズムを正しく選別する能力をもつことである。この能力には、研究者間で差があり、その能
元のページ ../index.html#12