MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
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224写真1 第38回創薬セミナー集合写真 2022年7月7日・8日の2日間、第37回創薬セミナーが開催された。前年に引き続き、コロナ禍の状況を鑑みてオンライン開催となったが、世界をリードする素晴らしい功績を有する10名の先生方を講演者として招待し、熱い講演と質疑応答が行われた。本会は単なる勉強会ではなく、創薬に邁進する多分野の研究員が、フランクに語りあうことを趣旨としている。こうした場を提供すべく、ウェブアプリケーションのoViceを用いたオンライン懇親会をはじめて実装し、自由闊達なコミュニケーションをとることが可能となった。 1日目は理化学研究所田中克典先生の講演から始まった。Ru触媒を利用し、生体内で抗がん剤を合成するという画期的なコンセプトをさらに進化させ、KRAS変異を認識する糖鎖クラスターを用い、変異株特異的に抗腫瘍効果を示す手法が紹介された。また、がん細胞から生成するアクロレインを蛍光標識し、診断薬として活用するなど、多様な研究展開に刺激を受けた。日本たばこ産業株式会社野路悟先生からは、JAK阻害薬、delgocitinibの創製に関してご講演いただいた。3次元構造に着目し、複雑なスピロ環構築に、果敢に挑みつつ工程改良を行い、上市品を仕上げるストーリーに感銘を受けた。患者の視点で考え、使いやすい軟膏剤として開発した経緯も興味深かった。株式会社e-Projection長手寿明先生は、医薬品の事業性評価と題して、早期から創薬シーズの価値を求める必要性を説いた。最大限の努力をして予測を行うためのキーワードとして、コミュニケーション、論理性、一貫性、網羅性の4つをあげ、経営者にプロジェクトの価値を伝えることの意義を解説された。研究の価値を知るのは、その研究に知悉する研究者自身であるという言葉が印象的だった。昼食後は創薬セミナーの名物企画である自由討論会が開催された。「アンメットメディカルニーズと狙うべき疾患」「リード化合物探索・オプティマイゼーション」「創薬ターゲットとテーマ発掘」「次世代低分子創薬技術」「ニューモダリティ」「オープンイノベーション」「AI・インシリコ技術」といった7つのテーマに分け、各グループ7~10名の参加者が所属の立場を越え、自由で熱い意見交換を行った。講演者の先生方の参加もあり、討論に深みが増したことを実感した。今後の創薬研究に活かされることを期待したい。 1日目の締めくくりは、田辺三菱製薬株式会社上野裕明取締役から「革新的な医薬品創製に向けた田辺三菱の挑戦」と題して、田辺三菱のミッションである「病に向き合うすべての人に、希望ある選択肢を。」を実現するための多角的な戦略を拝聴した。上野取締役はメドケム出身であり、創薬セミナー卒業生という立場からのメッセージとして、「つくる」ことの大切さを説き、参加者に創薬大国日本を築いていこうと訴えかけた。講演会終了後は、時間に収まりきらなかった質問、意見ができる懇話会が開かれ、さらに夜の部として、前述したoViceを利用したバーチャル空間での密な交流が行われた。 2日目は、京都大学金子周司先生の講演から始まった。米国の有害事象データベースを解析することで、ある薬剤の副作用を抑える併用薬が、ドラッグリポジショニングできる可能性を見出し、動物実験で実証したことを解説された。標的分子の同定にまで発展が広がっており、リアルワールドデータの有効利用が創薬研究の加速につながることを実感した。株式会社VeritasInSilico中村慎吾先生は、RNA標的低分子創薬の歴史から自社技術までを、流れるように発表いただいた。標的探索、スクリーニング系、化合物最適化などのプラットフォームが揃い、発想の大転換期にさしかかるRNA低分子創薬は、参加者が詳細な点を質問する様子からも、今後ますますの進展が期待される分野だと感じた。東京大学富田泰輔先生は、アルツハイマー型認知症の病理的特徴であるAβ凝集のメカニズ記事「第37回創薬セミナー(オンライン)」開催報告

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