214図3 アロステリック阻害薬のタイプ分類と代表化合物の結合部位4-2.TypeⅣ阻害薬-Asciminib 前述したが、BCR-ABL阻害薬imatinibの承認によってCMLの治療は大きく進歩した。しかし進行性の患者では、治療の経過とともに標的に獲得性薬剤耐性が生じるという新たな課題があった。主な耐性は、imatinibが結合するATPポケットのゲートキーパー残基の変異T315Iであり、この変異によってATPポケットの形状が変化するため、imatinibの結合が抑制される。Asciminibは、このT315I変異体に対しても有効なアロステリック型の高選択的なBCR-ABL阻害薬である12)。 Asciminibは、BCR-ABLのKDC-lobeに存在するミリストイルポケットに作用する。この部位はABLにおいてkinase活性制御に関わる。野生型ABLは、N末端がミリストイル修飾されており、それがミリストイルポケットに作用することでSH2-SH3domainがKDに近接し、活性が抑制される。BCR-ABLは、ABLのN末部分がBCRと融合したキメラタンパク質であるため、ミリストイル修飾されておらず、生理条件でミリストイルポケットを介した活性制御機構がない。Asciminibは、ミリストイル基の代わりにミリストイルポケットへ結合することで、BCR-ABL、ならびにそのATPポケットMEK1/2(MEK)阻害薬である。Trametinibはフェノタイプスクリーニングから見出されたヒット化合物を基に創製され、他のMEK阻害薬とはケモタイプ、および細胞での阻害様式が異なる。MEKはactivationloop上のSer218、およびSer222がリン酸化され活性化されるが、trametinibは非リン酸化型MEKに対する活性が強く、その解離速度が極めて遅いため、阻害作用が持続する。この特徴に起因し、BRAFV600E変異体発現のHT-29細胞にtrametinibを作用させると、下流ERKのリン酸化を阻害するとともに、リン酸化型MEKを速やかに非リン酸化型へと誘導する。そのため、酵素阻害活性が同程度のPD0325901と比較して細胞増殖抑制活性が強い9)。この分子メカニズムとして、trametinibにはMEKとpseudokinaseのKSR1/2との結合を安定化するMolecularGlueとしての作用が報告されている10)。また、両者の複合体形成により、MEKと上流のBRAFとの相互作用が阻害され、MEKのリン酸化が制御されることが示唆されている10)。加えて、trametinibはPK面でも特徴があり、血液中の薬物濃度が大きく上昇することなく活性域の濃度で長く持続するため、安全性面で有利に働いていると考えられる11)。5-1.立体的な化学構造をもつ阻害薬-Tofacitinib Tofacitinibは、自己免疫疾患を適応とするJAK選択的な阻害薬である。その化学構造は、ヒンジと相互作用する平面構造のピロロピリミジン環とJAKのATPポケットの形状に高い相補性をもつ多置換ピペリジン環(P-loopに対するシアノメチル基の相互作用とC-lobe側のメチルポケットへの相互作用)に分けられ、後者が高い選択性の発現に大きく寄与している(図4)14)。一般にkinaseのATPポケットは平面構造を好むが、脂環式構造が許容される場合、個々のkinaseに特徴的な残基に対し、三次元的に置換基を配置することで選択性が確保の変異体の活性を阻害する。 さらに、Kinase阻害薬の薬剤耐性の観点から興味深い論文が報告されている13)。Asciminib、およびTypeⅡ型のBCR-ABL阻害薬nilotinibは、KCL-22(BCR-ABLWT)xenograftモデルにおいて、いずれも腫瘍の退縮効果をいったん示したが薬剤耐性を生じた。一方、両阻害薬を併用した試験では、腫瘍が退縮した後、両薬の投薬を中止しても腫瘍の再発を抑制し続けた。今後、臨床へのトランスレーションが期待される。5. 化合物の構造に特徴をもつ選択性の高いTypeⅠ阻害薬 TypeⅠ阻害薬は、活性型構造のATPポケットに結合する阻害薬であり、承認薬の多くはこのタイプに分類される。ATPポケットを形成するアミノ酸残基が高度に保存されているため、一般に選択性を確保することは難しい。一方、化合物の構造的特徴に基づく高選択的な阻害薬が存在しており、以下解説する。
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