3. 最新技術との融合2092-3.後処理 反応の後処理操作は、反応の種類や生成物・夾雑物の特徴に合わせてさまざまな手法から選択する。その際、1反応ずつ行う従来の合成では状況に応じて後処理方法を柔軟に変更できるのに対し、ハイスループット合成では並列した反応ごとに処理を変更するのは非効率であるため、可能な限り同一処理で対応できるように適切に後処理操作を設計する必要がある。弊社では、最も一般的な後処理である液液抽出においては、自動分注装置を活用し、溶媒(水層、有機層)の分注、振とう、有機層の分離・取り出しまでを自動化している。また、各種スカベンジャーレジンや固相抽出用カートリッジを使用した後処理も利用している4)。マルチステップ合成では、これらの手法を用いて迅速かつ簡便に反応液中から夾雑物を除去し、後続の反応に進める場合が多い。2-4.精製 化合物の精製は、アミド化などの方法論が確立されている一部の反応では、固相担持試薬を用いる精製手法が利用される場合もあるが、高純度の化合物を求める場合には一般的に分取HPLCで行われる。弊社でも、逆相の分取HPLCを複数台保有し化合物精製に利用している。オートサンプラーにより自動でインジェクションを行い、MSトリガーにより目的化合物の分画をフラクションコレクターで収集する。分取精製の前に、UHPLCによる短時間の予備分析を行い、その結果をもとに、自社開発のアルゴリズムにより、化合物ごとに最適な溶媒のグラジエント条件を決定する。この分析-分取システムにより、一律のグラジエント条件で精製する場合に比べて、高純度の化合物を取得することができる。 分画されたフラクションは、遠心エバポレーターを用いて溶媒留去を行う。弊社では、最大で240本の試験管に入った溶媒を留去することができる大型の遠心エバポレーターを10台保有しており、多くの化合物のフラクションを1度に濃縮することが可能である。2-5.評価サンプルの調製と化合物登録 薬理評価をはじめとする各種評価をスムーズに実施できるよう、合成された化合物は一定濃度のDMSO溶液に調製し薬理評価用のプレートに分注している。化合物は精製が完了した段階からバーコードで一元管理され、化合物の機器分析、重量、溶液量、プレートの情報などが紐付けられる。化合物の秤量からプレート化までは自動分注装置を使用し自動化が可能である。このようにして調製したサンプルは、薬理活性の評価に付するだけではなく、物性、ADMEパラメーター、毒性パラメーターの評価まで実施することが可能であり、1回のハイスループット合成で得られる情報は豊富である。 多数の化合物の合成では、実験ノート作成・化合物登録といったデスクワークも煩雑となる。弊社で活用している電子実験ノートは、通常の合成に対応したフォーマットの他にハイスループット合成に特化したフォーマットも整備している。生成物の構造式の自動発生や、複数化合物の一括登録を電子実験ノートという1つのソフトウェア内で完結することができ、効率改善に寄与している。 近年、急速に発展しているAIやロボットなど、デジタル技術の創薬研究への応用が進んでいる。弊社の低分子創薬研究においても、最新デジタル技術を活用する医薬品創製プラットフォームを構築しており5)、このプラットフォームにおけるハイスループット合成の果たす役割について紹介する(図2)。 バーチャルスクリーニング(VirtualScreening:VS)は、コンピュータ上で膨大な数の化合物ライブラリーと標的分子のドッキングを行い、標的に対して結合活性を有する可能性の高い化合物を取得する技術である。AIやクラウド環境も併用することで、10憶を超える超大規模なバーチャルライブラリーをスクリーニングすることも現実的になっている6)。薬理実験によるスクリーニング手法と比べて、実際に化合物ライブラリーを保有しておく必要がないのが利点である一方で、VSでヒットした化合物の入手に時間がかかるという課題がある。弊社では、ハイスループット合成用BBの組み合わせにより億単位の大規模バーチャルライブラリーを構築しており、このライブラリーからヒットした化合物はハイスループット合成により迅速に合成し薬理評価を行うことができる体制を整えている。現在、VSのスコア上位化合物の合成を数百化合物規模で実施しているが、VS完了から薬理評価までを約1ヵ月で実施可能であり、このような大規模かつ短期間での合成・評価の実施にハイスループット合成は欠かせないものとなっている。 AI創薬とハイスループット合成の相乗効果も大きい。弊社では、ハイスループット合成用BBを基にした構造
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