MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
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〔SUMMARY〕 ハイスループット合成は、コンビナトリアルケミストリーを基盤とした合成技術であり、長年にわたり低分子創薬研究の加速化に貢献している。近年、ロボティクス技術を含む合成関連機器の発展や、人工知能(ArtificialIntelligence:AI)を取り入れた創薬研究の進展が目覚ましい。そのような周辺技術を組み入れることで、ハイスループット合成自体もブラッシュアップされている。弊社では、合成の工程においてより自動化されたプラットフォームを構築し、ライブラリーデザインではADMET予測モデルの積極的な活用を進めている。本稿では、創薬現場におけるハイスループット合成技術についての概要、すなわちデザイン・合成などの各工程について詳述するとともに、最新技術との融合による新たな展開について、弊社での取り組みを軸に紹介する。High-throughputsynthesistechnologyisbasedoncombinatorialchemistryandhasbeencontributingtotheaccelerationofsmallmoleculedrugdiscoveryresearchformanyyears.Inrecentyears,therehavebeenremarkabledevelopmentsinsynthesis-relatedequipment,includingroboticstechnology,andindrugdiscoveryresearchthatincorporatesartificialintelligence(AI).Byincorporatingsuchtechnologies,high-throughputsynthesiscontinuestoevolve.InAstellas,moreautomatedplatformsarebeingleveragedforsynthesis,andADMETpredictionmodelsarebeingactivelyutilizedinlibrarydesign.Inthisreport,weprovideanoverviewofhigh-throughputsynthesistechnologyindrugdiscovery,includingdesignandsynthesis,andintroduceourcompany’seffortstointegratethelatesttechnologyintohigh-throughputsynthesis.る2)。前者は近年、固相担体の代わりにDNAをバーコードの役割として用いることで、数億単位のスクリーニングを可能とするDNAEncodedLibraryへと発展している3)。ハイスループット合成は、後者のパラレル法の中で、特に液相合成法において発展した技術や装置を活用し、迅速に多数の化合物を同時に合成する技術である。コンビナトリアルケミストリーが大規模なライブラリー合成によるセレンディピティを指向するのに対し、ハイスループット合成は活性の向上や構造活性相関(structure-activityrelationship:SAR)取得など、目的に合わせてデザインされた化合物群を迅速に合成するために活用される。 ハイスループット合成は、これまでの低分子創薬を支えてきた基盤技術の1つであり、創薬研究の加速化に貢献してきた。近年、創薬研究への応用が進むAIなどの最新技術との相乗効果により、さらなる貢献が期待されている。本稿では、創薬現場におけるハイスループット合成技術の概要と最新技術との融合について、弊社での取り組みを軸に紹介する。MEDCHEM NEWS 32(4)207-211(2022)207Keyword high-throughput synthesis, robotics, artificial intelligence, AI*1 アステラス製薬株式会社 開発研究 ディスカバリーインテリジェンス  *2 アステラス製薬株式会社 創薬アクセレレーター ベンチャーユニット 瀬尾竜志Ryushi Seo*1・渡辺順子Junko Watanabe*21.はじめに 創薬研究の加速化が求められている。Covid-19というパンデミックを経験したこの世界において、新薬を早期に創出することの重要性がさらに増したことはいうまでもない。加速化を実現する手段の1つとして、さまざまな技術を駆使して創薬研究の効率化を図ることがあげられる。そのような技術の1つがハイスループット合成である。 ハイスループット合成の基盤となっているのは、1990年代に創薬研究へ本格的に取り入れられるようになったコンビナトリアルケミストリーである1)。コンビナトリアルケミストリーは、組み合わせ論に基づき多数の化合物ライブラリーを1度に合成する手法であり、合成法としてはミックス&スプリット法とパラレル法に大別されプラットフォームサイエンス&モダリティ研究室 主管研究員Research Fellow, Platform Sciences & Modalities, Discovery Intelligence, Applied Research & Operations, Astellas Pharma Inc.Innate Immune Regulation主任研究員Senior Researcher, Venture Unit Innate Immune Regulation, Drug Accelerator, Astellas Pharma Inc.Overview and new trends of high-throughput synthesisハイスループット合成技術の概要と新展開

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