6. オートファジー創薬のこれから206AUTHORとしての機能にもとづいた薬剤である。p62のZZドメインは、分解基質のN末端デグロンを認識し、p62自身の凝集とLC3との相互作用を介して基質をオートファゴソームに送る16)。p62リガンド(p62ZZドメインのリガンド)と標的化リガンドからなるキメラ分子:AUTOTACは、狙った基質にN末端デグロンを導入する化合物とも捉えることができる(図4E)12)。がん関連因子(AR、ERβなど)やタンパク質凝集体に対するAUTOTACが分解効果を示すと報告されている。 「AUTOTAC分解の過程にユビキチンが関与しない」というKwonらの強い主張は、作用機序の観点から興味深い。p62が関与する選択的オートファジーでは、一般にユビキチンの関与が不可欠だからである。筆者らのAUTACもまたp62と同時にポリユビキチンを必要とするため、両技術の機序は対照的である。 最近、Kwonらは、AUTOTACに利用したZZドメインリガンドが、細胞内感染したサルモネラ菌のオートファジー分解を促進できると報告した17)。この場合には、細菌周囲へのp62のリクルートにユビキチン化が不可欠であった。AUTOTACの論文とは一見異なる主張として注目される。 米国UCバークレーのNomuraグループも、p62と分解基質を仲立ちする類似概念のデグレーダーを開発している。特許文献であるため、詳細は不明だが、BETファミリータンパク質を狙ったBMF-1-64やポリグルタミンタンパク質を狙ったBMF-1-141などが機能するようだ18)。 PROTACやSNIPERといったUPS基盤の技術は20年の歴史をもつ19)。AUTACによりオートファジー基盤のデグレーダーの新時代も幕を開けた9)。それぞれの長所を発揮して相補し合う形で発展していくために、多様な標的について検証する必要がある。筆者らもAUTACを使ってタンパク質凝集体や病原体を標的とした実験や、動物モデルでの試験に取り組んでいる。このような知見の積み重ねが、デグレーダー医薬の実用化に大きく貢献するはずだ。 最後に、デグレーダーが働く前提として疾患細胞におけるオートファジーの駆動レベルが関わることを指摘しておきたい。例えば、傷害ミトコンドリア選択的オートファジー(マイトファジー)が、パーキンソン病の治療参考文献1)DikicI.,et al.,Nat. Rev. Mol. Cell. Biol.,19,349‒364(2018)2)LamarkT.,et al.,Annu. Rev. Cell Dev. Biol.,37,143‒169(2021)3)SunD.,et al.,Cell Res.,28,405‒415(2018)4)KageyamaS.,et al.,Nat. Commun.,12,16(2021)5)Shoji-KawataS.,et al.,Nature,494,201‒206(2013)6)GalluzziL.,et al.,Nat. Rev. Drug Discov.,16,487‒511(2017)7)ItoC.,et al.,Mol. Cell,52,794‒804(2013)8)SawaT.,et al.,Nat. Chem. Biol.,3,727‒735(2007)9)TakahashiD.,et al.,Mol. Cell,76,797‒810.e10(2019)10)TakahashiD.,et al.,Cell Chem. Biol.,28,1061‒1071(2021)11)LiZ.,et al.,Nature,575,203‒209(2019)12)JiC.H.,et al.,Nat. Commun.,13,904(2022)13)FuY.,et al.,Cell Res.,31,965‒979(2021)14)OuyangL.,et al.,Chem. Commun.,57,13194‒13197(2021)15)DongG.,et al.,J. Med. Chem.,65,7619‒7628(2022)16)Cha-MolstadH.,et al.,Nat. Commun.,8,102(2017)17)LeeY.J.,et al.,Autophagy,(2022)https://doi.org/10.1080/15548627.2022.205424018)NomuraD.,et al.,PCTInternationalPatentWO2019183600A1.(2019)19)BondM.J.,et al.,RSC Chem. Biol.,2,725‒742(2021)20)LevineB.,et al.,Cell,176,11‒42(2019)に有効であると考えられているが、一部の家族性パーキンソン患者では、マイトファジーに関わるユビキチンE3リガーゼParkinやキナーゼPINK1に変異がある20)。このように、一部の疾患でオートファジー関連因子が遺伝子レベルで抑制されているといわれている20)。この場合、AUTACのようにParkin-PINK1経路に依存しない手法を選ぶことが解決策になるかもしれない。オートファジーの多様性に着目し、オートファジー関連因子の発現量を適切に制御する薬剤の開発もデグレーダーの実用化に貢献するだろう。高橋大輝(たかはし だいき)2013年弘前大学農学生命科学部卒業後、東北大学大学院生命科学研究科においてAUTAC開発研究を進め、2019年博士(生命科学)。2020年より同助教。ケミカルバイオロジーを駆使してオートファジーの基質選択機構の解明を目指す。有本博一(ありもと ひろかず)2004年ごろよりAUTACの源流となる8-ニトロcGMPの研究を開始。現在は、老化と選択的オートファジーの関係にも興味を持っている。2005年より現職。Copyright © 2022 The Pharmaceutical Society of Japan
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