MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
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(A)AUTAC技術の概要。標的化リガンドによりオートファジー分解タグ(例:FBnG)が分解標的に導入される。(B) AUTAC2によるFKBP12の分解。標的化リガンドとしてSLF(synthetic ligand of FKBP)を利用した。(C) ミトコンドリアを標的としたAUTAC4。ミトコンドリア外膜に存在するTSPOと結合するリガンドを利用して標的化した。機能不全ミトコンドリアをもつダウン症由来細胞に処理すると、ミトコンドリアの形態が改善(断片化が解消)するとともに、細胞内ATPレベルが増大した。 ミトコンドリア染色:MitoTracker Green / *:p<0.05(Student’s t-test)204図3  AUTAC技術による細胞内分子の選択的分解の強みは、「守備範囲」の広さである。AUTACは、オートファジーを利用するため、昨今話題に上るウイルスや細菌、細胞小器官なども分解することができるはずである。そこで筆者らは、ミトコンドリアをオートファジー分解するAUTAC創出を目指した。ミトコンドリアは、エネルギー産生以外にも役割を果たす細胞小器官であり、オートファジー分解(マイトファジー)と生合成によるターンオーバーにより保たれている。機能不全ミトコンドリア特異的なマイトファジー誘導剤は乏しく、デグレーダーは大きな価値をもつ。 標的化リガンドを設計するためにミトコンドリア局在性化合物を文献調査したところ、多くは電荷をもつミトコンドリア内膜に集積するカチオン性化合物であることがわかった。AUTACが、細胞質側から「目印」を認識することをイメージすると、ミトコンドリア外膜の細胞質側にあるタンパク質を狙うべきと考えた。外膜タンパク質TSPO(translocatorprotein)に結合するインドール化合物を標的化リガンドとするAUTAC4を作成し、機能不全ミトコンドリアをもつダウン症由来線維芽細胞にAUTAC4を処理すると機能不全ミトコンドリアの分解が誘起された9)。この分解は同時にミトコンドリア生合成シグナルを刺激し、正常ミトコンドリアが新生することで、細胞内ATPレベルが有意に回復した(図3C)。機能不全ミトコンドリアは、正常なミトコンドリアから切り離され断片化すること(asymmetricfission)が知られており、このことがAUTAC4による機能不全ミトコンドリアの選択的分解に有利に作用したと考えられる。 筆者らが開発したAUTAC技術は、オートファジー基盤として世界初のデグレーダーであるだけでなく、ミトコンドリア関連疾患に対して“機能不全ミトコンドリアの直接的除去”というまったく新しい治療アプローチをもたらすと期待される。一方で、AUTACの作用機序は明らかになっておらず、筆者らにとって最も重要な関心事である。特に、S-グアニル化がオートファジーに認識される機構の解明を急いでいる。その機構がわかれば、さらに合理的な次世代AUTACの開発にもつながる。また、AUTACの作用は、オートファジー受容体p62に依存しているため、p62相分離が関与する選択的オートファジー機構との関係性も興味深いポイントである。5. オートファジーにもとづく  AUTAC技術が発表された後、オートファジーを利用するデグレーダーが相次いで報告されている10)。ATTEC(autophagosome-tetheringcompound)11)のように“分解基質と隔離膜を化合物で連結”するコンセプト、AUTOTAC12)のように“分解基質とオートファジー受容体:p62とを化合物を介して連結”するコンセデグレーダー開発の現状

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