MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
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203図2  S-グアニル化を介したオートファジーによるA群レンサ球菌の排除択性に関与するため(図1B)2)、オートファジー受容体と同じ機能を担う化合物がデグレーダーとして働くことは広く認識されていた。しかし、PROTAC開発から20年近く経っても成功例がなく困難が予想されていた。筆者らは、世界初のオートファジー基盤デグレーダーの開発を目指すにあたり、誰もが目指す受容体ミミックとしてのデグレーダー探索を避けることにした。選択的オートファジーの機構は基質によって細かな違いが見られ、先端研究の題材になっている。それならば、より実直に個別のケースに学ぶことが近道と考えたからである。細胞内に侵入した細菌は、選択的オートファジーの代表的な基質であり、筆者らの研究室もA群レンサ球菌を題材に研究を進めていた。重要なヒントは、分解を受ける細菌の表面に起こる「S-グアニル化」である(図2)7)。S-グアニル化は、細胞内ストレス下で産生する内因性分子8-ニトロcGMPによって起こるタンパク質翻訳後修飾である8)。S-グアニル化された細菌にはK63結合型ポリユビキチン化が促進し、高確率でオートファゴソーム内に取り込まれた(図2)。一方、8-ニトロcGMPの産生を阻害した細胞では、ユビキチン化やオートファゴソームへの取り込み分解が抑制された。このことから、S-グアニル化が基質選択的オートファジーを促進する目印として働くと示唆された。そこで、S-グアニル化単独で目印として働くかを検証するため、非感染細胞においてS-グアニル化された人工基質の分解を調べた9)。非感染条件の採用は、細菌由来成分がS-グアニル化とともに働く可能性を排除するためである。その結果、S-グアニル化基質(タンパク質)の分解が誘導された。基質1分子に導入されるS-グアニル化タグの数は1つで十分であった。以上の成果から、S-グアニル化がデグレーダーの分解タグとしての可能性が示された。4. オートファジーを利用した  分解タグの発見を受けて、デグレーダーの設計を進めることにした。現在、知られているデグレーダーは、分子のり(molecularglue)とヘテロ二官能性分子(キメラ分子)に大別される。後者は、未だ貴重な分解タグを活かす汎用性の高いアプローチとなる。分解標的との結合を担う「標的化リガンド」は、先行するPROTACs研究から学ぶことができる。筆者らもこれを参考にして、分解タグ(S-グアニル化構造)と標的化リガンドをPEGリンカーで連結したキメラ分子「AUTAC(autophagy-targetingchimera)」を設計した(図3A)9)。なお、天然のS-グアニル化は、負電荷をもつcGMP部分が薬剤動態に影響することや、プロテインキナーゼGの活性化などによる副作用が懸念されたため、合成的に構造展開を実施して得られた新規分解タグp-fluorobenzylguanine(FBnG)に変更した。当時、BETファミリータンパク質のプロテアソーム分解を誘導するPROTAC:dBET1が話題になっていた。その標的化リガンドであるJQ1も含めて、数種類のタンパク質に対するAUTAC分子を設計したところ、標的タンパク質のオートファジー依存的な分解が観察された(図3B)。 UPSを利用するデグレーダーに対するAUTAC技術世界初のデグレーダー「AUTAC」の開発

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