(A)一般的なオートファジーの流れ。分解基質は隔離膜により包まれ、リソソームの酵素によって分解される。(B) 選択的オートファジー。オートファジー受容体を介して分解基質が隔離膜に繁留される。LC3と結合するのは共通だが、ユビキチン化基質を認識するものと、基質そのものを認識するものの2タイプに分けられる。小胞体、ミトコンドリア、病原体の分解に関与する主なオートファジー受容体を右側に示した。3. オートファジーを利用した 202図1 オートファジーの概略と選択的オートファジーにおける分解基質選択機構要性が示唆される4)。2. オートファジー医薬への期待と現状 オートファジー不全マウスでは、がんや神経変性疾患様の病態が早期に観察されることから、オートファジーの疾患抑制機能が示唆された。しかしながら、オートファジー活性化を主たる機序とする医薬はまだない。その背景として、既存のオートファジー誘導剤のほとんどは上流因子(mechanistictargetofrapamycin:mTORやATP-activatedproteinkinase:AMPKなど)の調節薬であり6)、これらはオートファジー以外のシグナル経路を介する副作用の懸念がある。Levineらが開発したTat-beclin15)は、オートファジー特異的な活性化を可能にするが、この場合であっても分解基質選択性の制御はできない。 がん細胞におけるオートファジーの二面性もオートファジー創薬を難しくしている6)。オートファジーは早期の発がん段階では抑制的に働くが、確立段階以降では腫瘍の生存を助ける。一方、腫瘍細胞でのオートファジーの増強は、抗がん剤の腫瘍細胞に対するストレスを軽減させ、薬剤耐性を誘発する可能性がある。現在は、がん治療に対するオートファジー阻害剤の利用が試みられている。いずれにせよ、狙った分子を特異的に除去する方法が確立されなければ、オートファジー創薬は難しい現状にあるといえる。 PROTAC(proteolysis-targetingchimera)やSNIPER(specificandnongeneticIAP-dependentproteineraser)に代表される「デグレーダー技術」は、細胞に備わる分解システム“ユビキチン-プロテアソーム経路”(UPS)をハイジャックして疾患原因タンパク質を分解する。疾患原因を除去するデグレーダーは、足場タンパク質や擬酵素を含むアンドラッガブル標的にも適用できるとされ、今や創薬の標準的手法として受け入れられている。デグレーダー設計にあたっては、疾患関連物質に対する高い基質選択性を担保する必要がある。オートファジーを基盤とするなら、選択的オートファジーの機構を使うほかない。上述のようにオートファジー受容体が選デグレーダー開発の戦略
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