3. おわりに199図8 S-217622(Ensitrelvir)の創製ストーリー図7 S-217622のin vivo抗ウイルス効果a.50% Tissue Culture Infectious Dose(宿主細胞の半分がウイルスに感染したときのウイルス濃度)。b.Lower limit of quantification(定量限界)。c.Twice daily(1日2回投与)。VehicleS-217622(BIDC)先行創薬研究本格検討開始本創薬研究いった他のコロナウイルス種に対する幅広い抗ウイルス活性とともに、ヒトプロテアーゼに対する高い選択性を示した。さらに、SARS-CoV-2感染マウスを用いたinvivo薬効試験において、肺内ウイルス力価の用量依存的な強い抑制作用を確認し、化学リーダーとして自信をもって、候補化合物として選抜することができた(図7)。 2021年7月から日本で開始されたPhase1臨床試験において、S-217622は、40時間を超える血中消失半減期を示すなど、優れたPKプロファイルを示すことを確認している9)。また、Phase2a/2b臨床試験においては明確な抗ウイルス効果を確認できた10)。2022年7月現在、Phase3臨床試験を実施中であるとともに、国内においてEnsitrelvirという一般名、1日1回経口投与(5日間)の用法で、緊急承認制度適用による製造販売承認申請中である。 Ensitrelvirのスピード創製は、「感染症のSHIONOGIとして、COVID-19治療薬を一刻も早く世の中に届ける」という塩野義製薬社員一同の強い信念、思いによって実現した、我々の存在意義をかけた戦いといえるものであったが、その過程はまさに既成概念との闘いの連続であった。振り返ってみると筆者らは、これまでの業界や自分たちの常識、思い込みに捉われていたが、「どうすれば可能になるか」を考えることで、これまで不可能と思っていたことでも実現できることは数多くあった。図8には、Ensitrelvirの創製ストーリーを時系列で示している。スクリーニングヒットを得てから4ヵ月後には、のちのEnsitrelvirの1stロットが合成され、それから4ヵ月足らずでGLP試験まで完了、SAR展開を開始してからおよそ8ヵ月後の2021年7月22日には、Phase1でのFIH(First-in-human)を達成している。筆者自身、創薬プログラムを開始した当初は考えもしなかったような、まさに想像を超えるスピードであった。 今回の創薬において、リソースの問題を棚に上げたうえで、何を、どうすれば最速での創薬が可能になるか、について考え抜き、経験できたことは、我々にとって大変貴重な財産となった。この経験が、「薬になるまで10
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