MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
25/56

197図3  スクリーニングフロー図4  ヒット化合物1とそのSARS-CoV-2 3CLproとの複合体結晶構造2) a.ヒト肝ミクロソーム存在下30分後の残存率。b.ラット肝ミクロソーム存在下30分後の残存率。1SHIONOGI化合物ライブラリー2-1.化合物スクリーニングとヒット化合物の獲得 今まさに起きているパンデミックにタイムリーに対応するため、いかに早く創薬を進めるか。蓄積してきたSBDDノウハウ、プロテアーゼ創薬での経験を活かし、スクリーニングは、社内化合物ライブラリーを用いたタンパク質構造ベースのバーチャルスクリーニング(VS)と、それに続く質量分析法を用いたハイスループットスクリーニングによって行うこととした(図3)。VSで絞り込んだ化合物のみを実際のスクリーニングに回すことることに由来する副作用を懸念していた。そこで、非ペプチド性かつ非共有結合性であり、経口投与可能な低分子の創製を目指し、創薬研究を開始することとした。2-2.SBDDによる最適化SAR SAR展開初期に複合体構造が明らかとなったことにより、当初から構造情報を活用した戦略的な最適化SARを展開することができた。加えて、ヒット化合物は塩野義製薬独自の化合物であり、合成法情報やADMET(absorption、distribution、metabolism、excretion、toxicity)情報などが社内に豊富に蓄積されにより、スクリーニングにかかる期間を大幅に短縮するとともに、リードアウトとして質量分析法を用いることで、評価系や化合物の自家蛍光・消光作用に起因する偽陽性や偽陰性を極力抑え、数は少ないが質の高いヒット化合物群を得ることに成功した。ヒット化合物の1つである化合物1は、SARS-CoV-23CLPRO阻害活性こそマイクロモルオーダーと弱かったものの、高いinvitro代謝安定性に加え、ラットの薬物動態(Pharmacokinetics:PK)試験において低クリアランスと高い経口吸収性といった優れた薬物動態を示し、これを起点としてSAR(Structure-ActivityRelationship)展開を開始することとした。さらに幸運なことに、SAR展開を開始するのとほぼ同時期に、並行して準備していたX線複合体構造解析にも成功した。X線構造における結合モードは、ほぼドッキングから予想されたものと同様であったが、His41の側鎖のコンフォメーションが変化していることが確認でき、それに伴って特にS1ʼポケットにおいて、ドッキングとは異なる結合モードを取っていることが明らかとなった(図4)。

元のページ  ../index.html#25

このブックを見る