MEDCHEM NEWS Vol.32 No.4
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〔SUMMARY〕1.はじめに2. 高速創薬の実現MEDCHEM NEWS 32(4)195-200(2022)195Keyword COVID-19, SARS-CoV-2, SBDD, S-217622, Ensitrelvir立花裕樹Yuki Tachibana*1 2019年12月に中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(coronavirusdisease2019:COVID-19)は、2022年7月現在、世界で5億人以上が罹患、600万人以上の死者が出るなど、これまでにない規模のパンデミックを引き起こし、社会を大混乱に陥れている1)。今現在でも、特に入院していない患者に対する治療選択肢が限られており、軽症、あるいは無症候の患者にも服用できる、安全で有効な、経口治療薬創製が強く望まれている。塩野義製薬では北海道大学と共同で、原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)の複製に必須なタンパク質である、3C-likeprotease(3CLpro/mainprotease)をターゲットとした創薬にいち早く取り組み、1日1回、単剤経口投与(5日間)での治療が可能なS-217622を創製2)、2021年7月には臨床試験入りさせることができた。これは、2020年6月に COVID-19は、これまでに世界で5億人以上が罹患、6百万人を超える死者を出し、自宅で簡便に服用できる経口抗ウイルス薬の登場が待ち望まれている。ここでは、COVID-19の経口治療薬候補である、S-217622(Ensitrelvir)の創製ストーリーについて、紹介したい。Ensitrelvirは、社内化合物ライブラリーより見出されたヒット化合物を起点とし、Structure-BasedDrugDesign(SBDD)を活用することにより、従来は考えられなかったほど短期間で創製された。2021年7月に開始された臨床試験ではPh1において良好な薬物動態を、Ph2aおよびPh2bにおいて明確な抗ウイルス効果を確認し、2022年7月現在Ph3試験を実施中であるとともに、緊急承認制度適用による承認申請中である。Theglobalpandemiccausedbythenovelcoronavirus,severeacuterespiratorysyndromecoronavirus2(SARS-CoV-2),hashadanunprecedentedimpactontheeconomyandlifeofindividualsglobally,andsafeandefficaciousoralagentsareurgentlyrequired.Wediscoveredanon-peptidic,non-covalentSARS-CoV-23CLproinhibitorS-217622(Ensitrelvir),whichdisplayedin vitroandin vivoantiviralactivitywithpreferableDMPKprofileforonce-dailyoraldosing,usinganSBDDstrategy.ThepreclinicaldatasupportthesuitablepharmaceuticalpropertiesofEnsitrelvirasapotentialoraltherapeuticagentforpatientswithCOVID-19,andinclinicaltrialsstartedinJuly2021,favourablepharmacokinetics(Ph1)andclearantiviraleffects(Ph2aandPh2b)havebeenconfirmed.AsofJuly2022,Ph3trialsareunderwayandithasbeenfiledforapprovalasanEmergencyUseAuthorizationinJapan.本格的に創薬活動を開始してから臨床試験開始まで13ヵ月という、従来の製薬業界では考えられなかったスピードであり、2022年7月現在、日本において緊急承認制度適用による承認を申請中である。本稿では、このS-217622のスピード創製がどのようにして可能となったのか、当時のエピソードを交えて論じたい。 3CLproは、ウイルスRNAゲノムから翻訳された2つのポリタンパク質、pp1aとpp1abを切断し、機能性タンパク質に変換する役割をもつシステインプロテアーゼであり、これを阻害することによって抗ウイルス作用を示すことが期待できる(図1)3)。武漢で新型肺炎がはじめて報告されたわずか3ヵ月後の2021年2月上旬、SARS-CoV-2のもつプロテアーゼ、3CLproの最初の立体構造が、異例の速さでProteinDataBank(PDB)において公開されている4)。筆者は当時、Structure-baseddrugdesign(SBDD)を活用した創薬を担当しており、ウイルスプロテアーゼをターゲットとしたSBDDの経*1 塩野義製薬株式会社 事業開発部 部長 Vice President, Business Development Department, Shionogi & Co., Ltd.Discovery of S-217622, an Oral SARS-CoV-2 3CL Protease Inhibitor for Treating COVID-193CLプロテアーゼをターゲットとした COVID-19治療薬S-217622の創製

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